クラウドファンディングは作家の第三の収入源になるか? 長尾謙一郎先生に聞いてみた

デイリーニュースオンライン

クラウドファンディングを活用している漫画家の長尾謙一郎先生
クラウドファンディングを活用している漫画家の長尾謙一郎先生

 世に出版不況が叫ばれ、商業誌をベースとした作家の創作活動が難しくなる一方、Kindleダイレクト・パブリッシングでの自力出版など作家が出版社経由以外の方法で生計を立てていく方法も増えてきました。

 今回はその可能性を求めて、クラウドファンディングを活用している漫画家の長尾謙一郎先生と、ファンディングクラウドサービス「FUNDIY」の永井さんにお話を聞いてきました。

長尾謙一郎「クリームソーダシティ」続編制作プロジェクト

 なお、長尾謙一郎先生の場合は、ビッグコミックスピリッツ連載中に突如打ち切りとなった未完の作品「クリームソーダシティ」の続編製作のための制作費として200万円を募集しています。200万円集まることで25話~29話を執筆し、さらに今回で500万円まで集まった場合は完結まで執筆する予定とのことです。

 支援頂いた方には執筆原稿をPDFや印刷本にて提供、さらにはあなたの家のトイレ掃除や、あなたの家に壁画を描きに行くなどのユニークな「お返し」を設定しています。

やりたいことをやりたいようにできるのがCF

──今回、200万円まで集まれば5話分を描かれるということですが、完結までは何話を予定されているのでしょうか?

長尾「15話です。今回で500万円集まれば完結まで描く予定だけど、読者の人からは、(クラウドファンディングを)何回にも区切って展開してほしいと、その方が今後のクリエーターたちの未来に繋がるから、との声もありました。出版と作品と作家、ファンとの関係を考えると、そうなのかもなって思うところもありますね。だからもし、500万円集まらずに15話完結まで描けなかったら、また5話分のクラウドファンディングをやって、また続きを5話やるって形でいいのかなと思うんですけどね。それが可能なら、作家にとって天国みたいな状態になるんじゃないですかね」

──天国というのは?

長尾「やりたいことをやりたいように、タイミングもふくめやれる状態ですね。今は出版社はどこも表現の規制や経済的にも厳しいので」

──今回募集している200万円は制作費のみなのでしょうか? それとも長尾先生の収入部分も入っていますか?

長尾「まず漫画家にはアシスタントが必要なんですよね。だから、映画程とは言わないけど、どうしても制作費が必要なんです。設定額はあくまで従来の原稿料が目安です」

──ということは、従来の出版社ベースや、最近台頭してきたKindleでの自己出版に加えて、作家が糧を得る手段としてクラウドファンディングが第三の道たりうると?

長尾「もちろん。全然アリでしょう。クラウドファンディングは今後主流になって、みなさんやり始めるんじゃないでしょうか。でも、その三つの方法だけじゃなく、これからもっと色々なやりかたが出てくるでしょう。だから、どれか一つにだけしがみつくってのも良くないと思うなあ」

──FUNDIYとしては、今後も継続的に長尾先生のクラウドファンディングを行っていく予定でしょうか?

永井「今回で500万集まらなかった場合は、第二弾、第三弾というのはありえます。そういう形でのクラウドファンディングは前例がないのですが……」

──確かに、クラウドファンディングというと何かの企画のために単発でお金を集めるもの、というイメージがありますよね。

永井「ですよね。だから、継続して行う場合、ユーザーの皆さんがどういう反応をするかは前例がないので分からないのです。ですが、それを良しとしてくれるのであれば、将来的には連載をクラウドファンディングで行っていくという形もありうると思います」

──今回、例えば5話分、執筆されるとして、それの公開形式はどうなるのでしょうか? 支援者の方々に限定でお渡しするのか、もしくはWebなどで広く公開することもありうるのでしょうか?

永井「今は支援してくれた人たちだけに対して、PDFか製本されたものをお渡しする形です」

長尾「たくさんの人に見てもらいたい、ってのは本当はあるけどね。支援してくれた人は今のところ200人位しかいないんだけど、200人のために描くのか、と思うと、改めてびっくりするところはありますね。今までは何万人とか、そういう単位の人たちに見てもらってたわけだから。複雑な気持ちはあります。でもそこで考えるところもあって……。今までは作品のパワーを数でしか見てなかったのかなって気づきましたね」

──と、言われますと?

長尾「たくさんの人に届けようとすると、最大公約数的なエンターテイメントをやろうとするところがどこかにある気がするんです。ここはもう少しポップに描こうとか、読者にサービスしよう、とか。それが200人の人に見せるとなると、ちょっと変わるかもしれませんね。作家は無意識下に描きたいことが原液みたいにあるでしょう? それを希釈して、分かりやすく、伝わるように読者に届けるんだけど、自分にお金を出してくれた200人の人だけに見せるとなると、少し変わるんじゃないか、もっと濃いままダイレクトに伝えられるかもしれませんね。よりコアなものが作れるというか。ただ、今まで通りに希釈したものの方がうまく行く可能性はあって、それはやってみないと分かりませんね。でも挑戦はしてみたいです。」

──希釈されることで読みやすくなることは実際ありますよね。読者サービスも実際サービスを受ける読者は嬉しいわけですし。コアにしたからといって必ずしもクオリティが上がるとは、先生もまだ確信されていないということでしょうか?

長尾「希釈することとサービスすることはまたちょっと違うかもしれませんね。こんなサービスいらないよってのもあるじゃないですか、世の中には。ひょっとするとそういうありがた迷惑なサービスをしている可能性もあるんですよ。ファンの人にはよく、あんまり読者を気にしないでくださいよ、って言われるんです。もっと以心伝心で伝える表現の方がいいですよ、って。『理屈はいらねえ』ってやつです」

──多くの人に伝えようとする努力が、少数の人には感覚的に伝わるはずの情感などを阻害してしまう感じでしょうか。

長尾「あと、やりたいことが本当にやれる、という意味では、クラウドファンディングは出版社ベースに比べて規制を受けにくいってのもありますね。最近はどの業界でも表現の幅がどんどん狭まっていってるでしょう。というのも、とにかくクレームが多いんですよ。面倒な電話を受けたら、次からは回避したいですもんね。リスクを回避して回避して……だんだん自主規制が厳しくなっていく」

永井「雑誌は手に取れば誰でも読めるのでクレームも発生しやすいですが、クラウドファンディングの場合は読みたくてお金を出してくれた人だけが読むわけですから。クレームが発生しづらいというのはあります」

──クラウドファンディングは出版ベースのような表現規制などは全く行わないスタンスでしょうか?

永井「会社のコンプライアンスなどもありますので、なんでも、というわけではありませんが、少なくとも現状では出版社より縛りは弱いです。ケース・バイ・ケースになりますが」

長尾「作家って、出版社ができる前は自分で描きたいことを描いてたのが、出版社に富が生まれて、ここを通さないと、ここでやらないと作家じゃないってものになったんだけど、それで今は合議制っていうか、みんなで話し合って作るものになってるよね。みんなで作ると化学反応みたいなのも起こるんだけど、自主規制とかもあって妥協に繋がるわけで。漫画だったら原稿用紙、画家だったらキャンバスの前に、専制君主っていうかさ、おれのものだ、おれの世界だ、っていう。元々はそれでいいんじゃないかなって思うんだよね」

 ***

 クラウドファンディングの利点をまとめると以下のようになるでしょうか。

  • 出版社に比べて、読者からのお金を高い%で受け取れる
  • 読者が限定されるため、よりコアな表現に挑戦できる
  • 自主規制を最低限に抑えられ、クレームも受けにくい

 長尾先生とFUNDIYのこれからの結果次第ですが、さらにここに、

  • 継続的な収入が期待できる

 が加わるかもしれません。

 ただし、クラウドファンディングにはそもそも企画者に知名度が必要、もしくは宣伝力などの事実上の制限も存在します。知名度を得るには出版社を経由するのが手っ取り早いですし、これ一つで全ての創作が賄えるとまでは言えないでしょう。

 一方で、長尾先生のところには大手出版社の編集者からも、「次の新作はクラウドファンディングでタッグを組んでやりましょう」との声があるとのことで、従来の出版ベース以外のやり方として、クラウドファンディングは出版業界でも注目を集めているようです。

アートクラウドファンディング FUNDIY

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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