時に、田中角栄郵政大臣の最大の懸案は大量のテレビ局免許申請に対し、どう大タナを振るうかであった。
NHKと日本テレビが開局して以来、全国からテレビ会社設立申請が殺到、その数、実に86社153局に達していた。申請者の多くは全国各地の新聞社が主体の上、地方の経済界有力者も絡んで、どれを取り、どれを捨てるかは至難のワザと言えた。田中以前の郵政相はこの決定をひたすら先に延ばすことで、お茶を濁してきたのだった。田中にとっては、説得力、根回し、度胸など、まさに政治家としての力量が問われる場面と言ってよかったのである。
ところが、田中はこの難題を電光石火、郵政省の幹部ら事務当局一部の難色を一蹴、直ちに「大臣決定」で電波監理審議会に諮問、アッという間に全国予備免許43局を決めてしまったのだった。後に言われる田中への「“決断と実行”の政治家」のお披露目と言ってよかったのである。
また、田中郵政大臣による大タナは“省内改革”にも及んだ。これは省内にはびこっていた2大派閥のそれぞれのボス格局長のクビを切る一方で、労働組合「全逓」と真っ向から向き合うことであった。折から、「全逓」が「春闘」で勤務時間に食い込む臨時大会を強行したことにより、大臣就任翌年に「公労法」「国家公務員法」の違反ということで、関わった幹部7人の解雇を含め、減給、戒告、訓告約2万2千人、「全逓」全組合員の実に約1割の大量処分を断行した。ここでも郵政省事務当局は言うまでもなく、歴代郵政大臣も尻込みの処分を、テレビ免許同様、果断にやってみせたということだった。「処分に目をつぶって、大臣の務めが果たせるわけがない」として、リーダーに不可欠な「信賞必罰」を実行したことになる。
さて、この「信賞必罰」の一方で、田中は並みのリーダーではないことを見せつけた。まず、処分決定の裏で「全逓」幹部と取引、言うなら幹部7人への“クビ切り料”慰労金として即刻3億円を大蔵省から引き出し、これを先払いしてしまうという手に出た。明日から給料は出ない、クビとなった幹部の生活をおもんぱかってのそれであった。
その7人の1人に、中央本部書記長の大出俊という人物がいた。頭脳明晰、駆け引きも巧み、さっぱりした性格などから、一方では郵政省幹部からもなかなかの人物として好感を持たれていた人物であった。
人が動く! 人を動かす! 「田中角栄」侠(おとこ)の処世 第25回
2016.07.04 14:00
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