[プロインタビュアー吉田豪の60分3本勝負]

吉田豪インタビュー企画:北条かや「コンプレックスがあるので勘違いブスがうらやましい」 (2)

吉田豪インタビュー企画:北条かや「コンプレックスがあるので、勘違いブスみたいな人がうらやましくて」 (2)

 プロインタビュアーの吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。ライターの北条かやさんをゲストとしてお迎えした第2回。自伝的エッセイ『インターネットで死ぬということ』でも書かれた、北条さんの人間関係のコンプレックスなどについて語っていただきました。「勘違いブスがうらやましい」というのはどういうことなんでしょうか?

吉田豪インタビュー企画:北条かや「うまく生きていたら、こんなことにはなっていません…」(1)

■内心で優越感を抱いていた小学生時代

──社会学って客観性が必要だと思うんですけど、北条さんは主観のほうが強いと思うんですよ。

北条 強いですね。主観から社会学好きってなりましたもん。そういえば一昨日ぐらいに両親が今回の本を読んだんですよ。両親から「おもしろい」って言われてビックリして。

──いままでは自分を出さない堅い感じの本だったからピンとこなかったけど、今回はおもしろいよっていう。

北条 そうですね、両親がしおりを挟まずに読んでるのを初めて見て。「大学時代はたぶん何もつらいことがなかったんだろうね」って言われました。確かに大学から大学院の頃は勉強が楽しいだけというか。逆に「小中高時代はそんなにつらかったのね」みたいな感じで。

──あ、両親は気づいてなかったんですね。

北条 「ウチはそんなに厳しかったかねぇ」って言われたので。普通の家庭の厳しさはわからないですし、もっと厳しい親御さんもいると思いますけど、うちは子供の頃から周りに「かやちゃんちってホントに厳しくて、親はPTAだね」って言われたり、親のモノマネをされたりしてたんです。そういう経験があったので「自分の家庭は厳しいんだな」と。エピソードはもっとあるんです、ホントに嫌なぐらい。

──こじらせ始めたきっかけは学校で馴染めなかったことが大きいわけですかね。

北条 どうなんでしょうね……。こじらせてるっていうのは、ちなみに吉田豪さんの定義だとどんな感じですか?

──こじらせにもいろんな種類があって、ひと口には言いづらい部分と思うんですよ。でもたぶん、比較的正しい言い換え語は「生きづらい」なんだろうなとは思ってて。

北条 ああ、そうですね。生きづらいですね。もう死のうとは思わないですけど、落ちるところまで落ちると、やっぱり生きづらかったんだ、みたいに思うので。

──子供の頃からぼんやりと生きづらさみたいなものを抱えてきて。

北条 そうですね。今回、子供の頃の文集とか、作品の原典を結構しっかり当たったんですよ。引用にミスがあってはいけないので、実家で段ボールを開けて文集を取り出して。うちの親も親で、作文や表彰状をぜんぶ保存してたんですね。そしたら、ひとりだけ絵とかうまいんですよ。これは見下しますよね(あっさりと)。

──ダハハハハ! 最高です(笑)。

北条 自由帳ってあるじゃないですか、当時SMAPとか芸能人の似顔絵を友達と描いてて、みんなが描くのは全員一緒の顔なのに、私は安室(奈美恵)ちゃんのミニスカートのヒダまで精密に再現した絵を描いてたり。密かにそのときから、「うわ、みんなヘタだなあ」「なんでここにあるものがうまく写生できないんだろう」「ちゃんと写真を見てる?」って思ってたんですよね。みんな絵もヘタだし文章もヘタだなと思ってて。男子なんか目に入ってなかったんですよ、バカだし。

■バカな男子に学級委員選挙で負けた

──バカだし!

北条 ホントに意味がわからなくて。それで書かなかったエピソードなんですけど、すごいバカで太ってる男子と私で、学級委員長をどっちがするかっていう投票があったんですよ。私、自分のこと人望があると思ってたので、絶対に学級委員になれると思ってたら……。

──あんなバカでデブな男子には負けるわけないだろうと思ったら……。

北条 そう、そいつに負けたんですよ。すごい差で。

──ダハハハハ! 納得はしますけどね(笑)。たぶん人望はなかっただろうとは思うし。

北条 でも私、成績もいいし先生にも好かれてるし。

──絵もうまいし、文章もうまいし。

北条 そう、賞とか獲るし。自分は保健委員とかのレベルじゃないだろうと思ったんです。学級委員ぐらいになれるし、能力もあると思ってたんですけど人望が……。

──致命的にない(笑)。

北条 致命的になくて。小学生の頃のクラスでやる投票って、女子は女子に入れて、男子は男子に入れる感じだったんですけど、女子で何人か寝返ったヤツがいてダメだったんですよね。

──どうして自分に人望がないことに気づかなかったんですか?

北条 たぶん正しいことをしてると思ってるからですね。小学校のときって長い水道台があって、そこでみんな食後の歯磨きをするんですけど、96~97年って環境問題がすごくクローズアップされてた時期じゃないですか。オゾン層の破壊とか、地球の水がどんどん汚染されていくとか。それを教科書とかNHKの番組で知ったんですが、バカな男子はずっと水を出しっぱなしで歯を磨いてるんですよ。ウチはそういう無駄をやらない家庭だったので、私は水を止めて回ってたんですよ。「環境のこと考えなきゃダメだよ!」みたいな感じで。

──それは確実にウザがられますよ(笑)。

北条 当時はべつに「ウザい」って言われなかったんですよ。それでうっかり、自分は正しいことを見極めて啓蒙する力があると思って。だから学級委員にもなれるだろうって。

──やっぱり北条さんはおもしろいなあ(笑)。

北条 それで学級委員には落ちましたね。あれはすごい屈辱だったんです。

──正しいことをしすぎたせいで逆に嫌われたんじゃないかっていう自覚が、そのときに生まれた。

北条 当時はそう思ってましたね、いまはウザいことをしたから嫌われたっていうのがわかります。

──とりあえず昔から空気は読めない人だったっていうことなんですかね。

北条 それか読みすぎて、読みまくってるのがバレて嫌われるというか。読んでて媚びてるのがバレて嫌われるのかなと自分では思ってるんですけど。もうちょっと不様なエピソードいっぱいあるので、忘れないうちに書いていきたいなって思ってます。

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