ブラック企業や過労死の問題が明るみになり、「働き方」の見直しが叫ばれるようになり、社会全体で「働き方改革」が進んでいるようにも見える。しかし、今までの慣習を急に変えることは出来ない。とにかく残業をして仕事に没頭する人もいる。
『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子著、新潮社刊)はウェブ制作会社を舞台に、リーダーが勝手に進めてしまった無謀なプロジェクトが物語の中心となりつつ、どのように仕事と向き合うかという個々人の苦悩にスポットライトが当てられた新時代の仕事小説だ。
これまでの仕事小説は、一つの大きなプロジェクトを苦難を超えて成し遂げ、大団円を迎えるという筋書きが「王道」と言えるものだったが、この作品は、より個人の働き方にフォーカスして描かれている。
今回は作者の朱野帰子さんにお話をうかがい、小説に込めた想いについて聞いた。前編は物語の成り立ち、ストーリーのモチーフになった出来事についてである。
(聞き手・文/金井元貴、写真:山田洋介)
■職場の困った人は「全員自分の中の要素から作った」 ――まず、本作を執筆したきっかけからお聞かせください。朱野:最初、『yomyom』という新潮社さんから出ている電子雑誌の担当編集さんから執筆の依頼をいただいたときに、「会社にいる困った人をテーマに(小説を)書いてみませんか?」と提案を受けたんですね。
その話を膨らませていくうちに、「会社ってスーパーマンがいて、その人がなんとかしていくよりも、不完全な人たちがチームでなんとか壁を乗り越えていくところがあるよね」という話になりまして。
さらに、あれこれ話をしている中で、担当編集さんが「上の世代の仕事の仕方に納得できない」と。
朱野:例えば重要度の低い仕事も命がけでやるとか、健康的に危ない橋を渡るとか。彼女は世代的にゆとり世代なのですが、おそらくそういう上の世代の働き方に巻き込まれていたのだと思います。