五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(8)美田を残さず心の相続をする

| アサ芸プラス
五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(8)美田を残さず心の相続をする

五木 最近は、どういうわけか、銀行関係の講演の依頼が多いんだよね。たいがい相続のセミナーなんですが、兄弟で親から相続した土地を争うみたいなドライな相続の話にみんなうんざりしてるんじゃないのかな。そこでぼくは、そんな相続よりも“心の相続”というか、見えない相続のほうが大事なんだという話をしたりしています。

椎名 銀行の相続セミナーでそういう話を(笑)。

五木 まあ、イヤガラセみたいなもんだよね(笑)。例えばの話ですが、ある若い女性編集者と一緒に焼き魚を食べたとき、食べたあとの骨が標本みたいに残るきれいな食べ方だった。感心して聞いたら、母親から厳しく教えられた、母親は祖母から躾けられたと言うんです。誰でもそういう見えない相続をしていると思う。それは土地や財産よりも大事だと思うんです。

椎名 無意識に、無形のものの相続ですね。

五木 子孫に美田を残さずというか、やっぱり亡くなるときには、貯金は使い切って亡くなって欲しいね。遺すのは争いの種だから。

椎名 五木さんの世代って芯が強いというのか、土性っ骨が強いような気がします。

五木 そうですか。きっと非常時の子供だったからですね。ぼくらは12歳で終戦ですけど、戦中は1年でも早く少年飛行兵とか予科練に入ろうと思ってたから、20歳までは生きないと思ってました。自分が特攻機に乗ってアメリカの航空母艦に向かって急降下をしていて、どんどん敵空母の甲板が近づいてくる瞬間、自分が操縦桿をグッとひねって離脱するんじゃないかっていう夢で、よくうなされたものです。

椎名 凄絶な夢ですね。

五木 ところが敗戦になったらタガが外れた。敗戦以後、不良少年みたいになって12歳のときからタバコは吸うわ、どぶろくは飲むわ、先輩たちと花札博奕をするわ、泥棒もするわで。とんでもない中学生だった。

ピックアップ PR 
ランキング
総合
エンタメ