五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(8)美田を残さず心の相続をする (2/4ページ)

アサ芸プラス

椎名 ぼくは五木さんが「新潮」に発表された短編で『黄金時代』というのがすごく好きで、あれは血を売る、売血の話でしたね。

五木 そんなの読んでらしたんですか。お恥しい。ぼく自身も忘れてた唯一の暗い話で、エンターテインメントとしては失敗作です。半世紀も前の小説を覚えていてくれてるとは、うれしいなあ。

椎名 学生の頃にあの本を読んだんですけど、うらやましかったですね、兄貴たちの世代が。ちょうど五木さんと同じくらいの異母兄弟の長兄がいるもんですから。その兄は傷痍軍人で砲弾で片足をやられて戦地から帰って来て、軍隊で使ってた昭和新刀という日本刀がありました。ほんとは国に返さないといけなかったのを返さずに屋根裏に隠してたんですね。ぼくはそれを持ち出してよく近所の悪ガキたちに見せてました。あれは刀の柄のところに留め金があってそれを押さないと抜けないんですね。

五木 簡単に抜けると危険なんだよね。

椎名 友達に見せると、抜こうとしても抜けないわけです。そこでぼくは頃合いを見計らってスラーッと刀を抜いて見せると、友達がうわっと驚く、それがうれしくて何度もやって、ほとんど演劇と化してましたけどね。ぼくは東京で生まれましたけど、5歳で千葉に移住してからは、殴ったり殴られたり、ケンカに強くなることだけを考えていた野蛮な時期がありました。あるとき20人ぐらいの敵のグループがバットのような棒きれを持って攻めて来ましてね、このままでは殺されると思って、例の長兄の軍刀を持ちだしてきて家の前で、生け垣をバサバサ斬ってみせてたら、敵は本当の刀だとわかってサーッと去っていく。逃げていく奴を追っかけて、白菜畑のなかで刀を突き付けたまではよかった。でも真剣というのは振り回すと重たいんです。手はもうブルブル震えてヘタをすると人を殺してしまうという恐怖がありましたね。

五木 椎名さんの少年・青年時代というのは、まったく無頼の徒だったんですね。

椎名 何をやっていいのかわからない時代でしたね。

「五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(8)美田を残さず心の相続をする」のページです。デイリーニュースオンラインは、週刊アサヒ芸能 2018年 12/27号椎名誠五木寛之作家エンタメなどの最新ニュースを毎日配信しています。
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