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白い厚紙に引かれた黒い線を指差して、ゴメスさんは「そこよ」と口にした。
彼女は42歳のときに中毒性視神経症で眼球と脳をつなぐ神経がダメになり、完全に視力を失った。それからの16年間を暗闇の中で過ごしていたが、再び視覚を得られるチャンスが与えられた。
それは小さなカメラを仕込んだメガネのおかげだ。カメラの映像はコンピューターで処理されて、電気信号に変換される。その信号は、ゴメスさんの後頭部に移植された電極を通じて、脳の視覚野に送信される。
半年の実験では、ゴメスさんは天井の照明、紙に印刷された文字などの単純な形、そして人を認識することができた。それどころか、脳で直接パックマンのようなゲームまでプレイしているという。
・脳と網膜をつなぐ視神経のバイパス
彼女の視力を蘇らせたのは、スペイン、ミゲル・エルナンデス・デ・エルチェ大学のエドゥアルド・フェルナンデス博士だ。彼が目指すのは、世界に3600万人いると言われている目の見えない人たちに再び世界を見てもらうことである。
そのための方法が、目と視神経のバイパスだ。
視力回復に関する初期の研究では、人工の目——つまり網膜の作成が試みられていた。
これは確かに効果があるが、ゴメスさんのような目の見えない人の大部分は、網膜と脳をつなぐ神経に問題を抱えている。そのため人工網膜では光を取り戻せない。
そこでダメになった視神経を迂回して、カメラの映像を直接脳に送信しようというのである。
再び視覚を取り戻したゴメスさんimage credit:RUSS JUSKALIAN
脳に直接信号を送り視力を回復させるのは、かなり野心的な取り組みだ。