新型コロナウイルスが世界的に流行してしまった現在の状況を観察すると、実際のウイルスはもちろんそうだが、その恐怖心までもがパンデミックしているように思える。
イベントや旅行がキャンセルされ、学校が休校となり、地域が閉鎖されたというニュースは連日伝わってくるし、生活必需品が消えてしまった店内の風景もそこかしこで見かける。また一部では感染を恐れた人たちが、アジア人に対する人種差別的な行為を行っているという。
世界中の情報が瞬く間に伝わるようになった昨今、ウイルスの恐怖は、ウイルスそのものよりも速く伝染しているようだ。実のところ、怯えた人の恐怖の感染力はウイルスに負けず劣らず強力なのである。
・恐怖の伝染は進化によって獲得した生存のための機能
恐怖の伝染は、進化の視点から見ると古い現象で、数多くの動物で観察することができる。それは、生存には欠かすことができない機能であったということでもある。
アフリカのサバンナに、美しいレイヨウの群れがたむろしていたとしよう。突然、群れの1頭がライオンの接近を察知した。そのレイヨウはぎくりと体を硬直させるや否や、鋭く警戒の叫び声を上げて脱兎のごとく逃げ出した。次の瞬間、ほかのレイヨウたちも雪崩をうったかのようにそれに続いた。
脳は環境に存在する脅威に反応するようにできている。姿、ニオイ、音といった捕食者の存在を告げるサインは、すぐさま今の述べたようなレイヨウの生存反応を引き起こす。
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脳の中でこうした反応の発端となるのは、側頭葉の内側にある「扁桃体」という領域だ。