劣等感や恐怖、過去の失敗への後悔や虚栄心。
どんな人にも、思考や行動の隅々にこびりついて、暗に人生の筋道を定めているようなオブセッションがある。それらはあまり人に言えるようなものではなく、心に秘めたままでいることも多い。自覚していないこともある。
川上未映子さんの新刊『春のこわいもの』(新潮社刊)は、何歳になっても、人生の状況が変わっても、決して逃れられない個人的なオブセッションを様々な人の視点から書いた作品集だ。今回は川上さんにインタビュー。この本で書いた「こわいもの」について語っていただいた。その後編である。
――『春のこわいもの』で川上さんが世の中に提示したかったものがありましたら教えていただきたいです。
川上:提示したいものが先にあるわけじゃないから、あとでこじつけのように考えるしかないんですけれど、実感として「人生はこわいものだらけだよね」ということになるでしょうか。昔からあんまり「幸せ」には興味がなくて、あまり考えてもいないのですが、「恐怖」とか「恐れ」、「後悔」とか「みじめさ」について考えることが多かったような気がします。頭の中がずっとそちらに行っているんですよね。
――今のお話にあった「恐怖」や「後悔」はこれまでに書いてきた作品でも一貫してベースにあるのでしょうか。
川上:個人的なオブセッションとしての「恐怖」や「後悔」という意味ではそうかもしれません。自分はこわいものや、つらいもの、たら・ればを煮詰めた時に出る声のようなものを書いているのかなと思ったりします。ぜんぶ振り返って思うだけですけれど。「みじめさ」みたいなものとか。