S・ジョブズも被害に…「食事だけでがん完治」インチキ療法

がんを“予防する”食事はあっても“治す”食事はない

「がん大国」といわれるニッポン。国内で、がんで死ぬ人の数は年間に30万人以上。厚生労働省も「日本人の2人に1人が生涯でがんになる、日本人の3人に1人はがんで亡くなる」と報告している。

ソース/厚生労働省:がん対策について

 昔から「がんを克服する」「がんにならない」ための健康法を紹介する本やテレビ番組には高いニーズがあるが、近年のトレンドは「がんが治る食事療法」である。書店には多種多様な「がんが消えるレシピ」の本が並び、ネット上にも「食事療法で末期がんを完治させる」と自信たっぷりに謳った情報商材が存在する。

 新しいところでは、今年5月に刊行された『食べものだけで余命3か月のガンが消えた』(高遠智子著/幻冬舎)。発売1カ月で20万部を突破しベストセラーに。話題の書となり、現在までロングヒットを記録している。

 しかし、結論から言えば、現時点において「がんを治す」と称する食事療法に医学的・科学的な根拠はない。——これが“まともな”医師たちの共通認識である。

スティーブ・ジョブズは標準治療を拒否した

 がん食事療法の多くは玄米菜食を推奨し、肉類などの動物性たんぱく質や、精製された白砂糖、それに人工的な食品添加物や農薬を忌避するというものだ。

 都内の大学病院でがんの治療にあたる医師は、次のように証言する。

「栄養状態に問題がある場合や、治療上で食事制限の必要がある場合などは別として、普通の食生活が可能な患者さんの場合、基本的には『バランスのよい食事を心がけてください』と伝えています。食べてはいけないものはありませんし、何かを排除する必要もありません」

 嫌いな玄米を無理に常食するよりは、おいしいと感じる白米を食べたほうが、QOL(Quality Of Life=生活の質)の面からも患者のためによいのだという。

「塩蔵食品や食塩の摂取は最小限にしたり、熱い状態で飲食物を摂らないなど、がんを予防するための食事のポイントはありますが、それも“がんを治す”ということとはまったく別物です」(前出の医師)

「がんを治す」と喧伝する食事療法については、こう警鐘を鳴らす。

「一般の病院が行う標準治療を否定しているかどうかがポイントだと思います。標準治療を頭ごなしに否定して、“食事療法だけでがんが治る”と言っているものは、例外なくインチキだと思っていいでしょう」(同)

 かのスティーブ・ジョブズも、標準治療を拒否して食事療法に傾倒した末に、がんが進行して56歳の若さにして亡くなったのは有名な話。医師は当然、手術でのがん切除を勧めたが、ジョブズはそれを拒んでマクロビオティックや絶対菜食主義の食事療法に走った。がんが見つかったときにすぐに適切な治療をすれば治るものだったが、結局、手遅れとなってしまったのである。

 陰謀論めいた言説で現代医療を否定し、もっともらしいフレーズで飾った極論を掲げる療法は、ハッキリ言って「あやしい」。大切な命を無駄にしないためにも、正しい情報を見きわめるリテラシーを身につけてほしい。

(文/相川英里子)

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