【下流社会】行き倒れ、大量の監視カメラ…ホームレスの聖地・山谷のヤバすぎる現状
ホームレスとドヤに泊まり、片付け屋に弟子入りしてゴミと格闘し、韓国で地元の人さえ知らない珍スポットに突入するライター、村田らむ氏。日本で今もっともディープなライターの1人である。らむ氏の新刊『ホームレス・スーパースター列伝』(1,728円・ロフトブックス)が8月21日に出るというので、せっかくだから南千住のドヤ街を案内してもらった。
南千住というと、労務者の街でありガラが良くない街という先入観がある。学生時代、明方にバイクで通りがかった南千住は、道路にゴミが吹き溜まり、夜が明けたばかりだというのに通りの角々で酒を飲む男たちが群れていた。ワイルドな街だったのだ。
誰も歩いていない寂れた街
今の南千住に、そこまでの空気は残っていない。キレイに改装された南千住駅は、清潔で明るく、行きかうのは会社員や学生ばかりだ。駅からおよそ10分ほど歩くと、山谷の名前で知られるドヤ街に着く。
明治通りの交差点でらむ氏が言う。
「ここが泪橋ですよ」
マンガ『あしたのジョー』でジョーがボクシングを習う丹下ジムのあった場所だ。マンガとはまった違う。
「ここに来ずに想像で書いたんじゃないですかね。あんな木造の掘立小屋はないですね」
らむ氏がホームレスの取材を始めたのは、今から15~6年前。以来、全国のドヤ街を巡り、ホームレスの話を聞いてきた。
今回の『ホームレス・スーパースター列伝』は、
「完全新作、書き下ろしです。全部取材し直してます」
初めて訪れた頃と今の山谷は違いますか?
「ホームレスが減りましたね。猛烈に減りました。生活保護が取りやすくなって、ケースワーカーつければ誰でもホームレスを辞めることができるようになったんです。国も生活保護を受けるように進めている。ホームレスは不法占拠だったり違法行為が多いんですよ。今、ホームレスやっている人は、ホームレスをやりたくてやっている人が多い」
ホームレスをやりたい?
「いろいろ問題があって、ホームレスをしている」
仕事はないんですよね、ホームレスだし。
「いや廃品回収の仕事をしていますよ。空き缶集めたり。1日3000円も稼げばいい方なので、ホームレスなら暮らしていけるけど家賃は無理ですね。生活保護だと12~3万円ぐらいは出るので、生活保護を受ける人が増えた。みんなパチンコやってますけどね」
働いてもその分取られてしまうので、バカバカしいから働かない。
「ホームレスやってる人の方が働くことは好きですよ。江戸川で漁師やってるホームレスもいますよ。河原に家建てて、魚とったり、魚釣りをしたい人を案内したり」
さびれた街である。誰も歩いていない。路地の両側はドヤ、1泊数千円の安宿だ。昔ながらのドヤは減った。
「外国人や高校生も泊まってますからね。建て替えて安いホテルになっています」
商店街を歩く。ほとんどの店はシャッターが閉まっている。弁当屋の前でらむ氏が笑う。
「おかゆがあるというのがこのあたりですね」
おかゆは120円。弁当は300円だ。安い。
さすがに商店街で寝ている人はいないだろうと思ったら、何人もいた。一本裏にある福祉センターでは、の看板の下で中年男が酔っ払って寝ていた。
道路に面してパイプ椅子を並べた飲み屋が空いていた。暇そうなオヤジが数人、飲んでいる。通りがかったオヤジの1人が、自分は源氏の血統だと言い出し、自転車のカゴから家系図を引っ張り出してきた。じわっとディープである。
歩き疲れて喫茶店に入ったら、道路の向かい側に救急車が止まった。さっき通った時に寝ていたオジサンがいたけれど、暑さで倒れ……救急隊員がブルーシートをかけている。えーと、寝ていたオジサンは寝ていたんじゃなくて、亡くなられていたということ? これはちょっとディープ過ぎ。
9時5時の生活では考えられない、サバイバルな人生。『ホームレス・スーパースター列伝』には、そんな異質な生き方を選ぶしかなかったオヤジたちへの親愛がぐつぐつ煮えて濃く溜まっているのだ。
(取材・文/川口友万)