【最新AIの基礎知識①】山川先生、今ドキの人工知能って自分で学習するんですか?
最近話題のAI(人工知能)。
クルマの自動運転からロボット、スマホやゲームなど、いろんなものに「AI搭載」だとか「AIの技術を開発」、「AIで将来~になる(なった)」といった訴求がされており、今の世の中AIのオンパレードである。
加えて、よく耳にするのが『ディープラーニング』や『汎用人工知能』といった言葉。私立文系出身の筆者には、さっぱり分からないワードばかりだ。
そんなAIオンチの筆者をはじめ、人には聞けないがこの機会に知っておきたいという読者のみなさんのために、日本で第一人者のAIスペシャリストに基礎の基礎を聞いてみた。
今回お話を伺ったのは、ドワンゴ人工知能研究所の所長にして、NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)代表を務める山川 宏氏。
今、世界中で開発競争が激化している『汎用人工知能』を、日本発進で作ろうと日々奮闘されている方だ。
2回に分けてお届けする【最新AIの基礎知識】、第1弾は“汎用人工知能とは何か?”だ。
■ AIは「できるようになる」とAIじゃなくなる?
まずは、そもそもAIとは何か? についてお聞きした。
山川先生、
<AI……、人工知能とは、言葉通り、知能を人が人工的に作ることです。では、学問的にどんな分野なのか? まず、歴史的に見ると『現時点で機械にはできていない、何となく“知的”なこと』と言えます。
例えば、AIの考え方が出てきた1960年頃は、機械がチェスをやることもできていなかったので、当時はAIでした。文字を読んだり変換することも、機械でできなかった頃はAIと呼ばれていました。
それが、できるようになるとAIとは呼ばれなくなります。“文字認証”とか“文字変換”、“音声認識”など名前が付くんです。>
かつてのワープロの文字変換ソフトや、今のスマホについている音声認識ソフトなんかも、昔はAIだったってことですね。
山川先生、
<そうです。一方、本来的な話として「知能とはそもそも何か?」ということも重要です。
ここで言う知能とは、“何らかの予測や推論”のことです。今、目の前では直接分からない情報を“推定する”といった事ですね。
例えば、今現在のことで陰に隠れているものが何なのか分かるとか、未来のことが予測できるとか、過去の事で分からないものなど。宇宙の観測もそうです。遠すぎて分からないことを 推定するのも、やはり知的なことです。
あと、知能は元々、生物が“生き残るため”に使ってきたものですよね。エサがどこにあるか推定できるなど、知能が高い方が生き残る可能性が高い。
生物の場合、そういった知能は、生まれてからの経験や学習によって獲得してきました。遺伝的な進化も、環境に適応するために、いろんな事を試すことで遺伝子に変異が起こり、違うものに変化する。
私が作ろうとしている『汎用人工知能』も、基本的には同じことをやろうとしています。>
■ 何度もコードに巻きつく家事ロボットは使えない
いよいよ『汎用人工知能』の登場だ。
山川先生、
<では、『汎用人工知能』とは何かと言うと、言葉の通り、基本的には“何にでも使える”知能という意味です。
生物でも、いろんな事ができないとだめですよね。例えば、誰かの家を訪問する場合、
・歩く
・家のドアを叩く
・相手の気持ちが分かる
・家の中でいろんなものを見て認識する
などなど、様々な知能や能力を組み合わせて動くわけです。歩くだけなど、1つだけ得意でそれ以外のことが抜けていると、すぐに失敗してしまいます。
AIでも例えば、今(研究室で)使っているお掃除ロボットって、すぐ椅子の脚に挟まったりして遭難してしまうんですよ。
将来、家事ロボットと作るときに、それと同じじゃ困るじゃないですか。1時間毎に、何度も掃除機のコードに絡まるロボットなんて、使えない。
1度くらいは絡まってもいいけど、そこからちゃんと学習してくれないと、買い換えたくなりますよね(笑)。
つまり、学習することで、多面的な問題解決や困難を乗り越える能力を持つ。そういうAIを『汎用人工知能』と呼んでいるんです>
■ 50年の停滞を破るディープラーニング
学習すると、いろんなことができるようになる人工知能?
山川先生、
<そうです。だから『汎用人工知能』は、実は初めからいろんなことができるわけじゃないんです。人間でも、子供のうちはいろいろと失敗しながら学ぶじゃないですか。
で、大人になると、子供の頃に学んだことと、大人になって学んだことを組み合わせることで問題解決をしていく。それと同じです。
今あるAIは、『ナローAI』と呼ばれています。ナロー……、(できる範囲が)狭いAIってことですね。
例えば、将棋のソフトウェアは将棋だけ、買い物にはいけない。当たり前だけど、プロの棋士は買い物にも行けますよね。人間は「成長するといろんなことができるようになる」というのが、今のAIとの大きな違いです。
実は、1960年代にAIが考え出された時は、科学者たちは、人間のようになんでもできるAIを作りたいと思っていたんです。ただ、難しくてできなかった。
なぜか? 例えば、今使われている将棋のソフトウエアは、「この場合はこれら3つのコマに着目しなさい」といった感じで、人間が細かく決める必要がある。
『特徴量』とか『表現獲得』と言うんですが、仕組みは計算機と同じだから、何の値について計算するか人間が決めて、プログラムを書かないと動かないんです。
だけど、最近出てきた『ディープラーニング』を使えば、いずれ将棋のどの『3つのコマに着目』するかを、コンピュータが自動的に探せるようになるのではないか? と言われています。
もしそうなれば、今まで人間が作らないと動かなかった部分が、自動的に作られるようになる。それにより、いろんな多面的な問題解決が自動的にできる可能性があるんです。
まだ、あらゆる局面でできているわけではないですが、AIが考え出されてから『ディープラーニング』が出てくる50年間は、厚い壁にあたっていた感じなんですよ。
もちろん、ある程度は進歩はしましたけどね。だけど、1990年代になっても2つの問題が解決できませんでした。
ひとつは、「どういう風に表現を作るか」といったことにも関わるフレーム問題。もうひとつは、「言葉と実際のものを繋げる」シンボルブランディング問題です。
例えば、「シマウマ」と言った時に、“体の表面に縞がある馬”といった結び付けができなかったんです。
『ディープラーニング』の登場により、そういった問題へアタックできる状態になったと言えますね。>

■ AIサイエンティストが社会問題も解決?
ところで『汎用人工知能』ができると、どんなメリットがあるんでしょうか?
山川先生、
<まずは、多用なものに対応できるものを安く作れる、ということですね。
『汎用人工知能』ができてすぐの段階では、今まで人間が設計していたところを機械が学習するということなので、性能自体は人間が設計したものの方が高い。
ただ、だんだん学習する方も調子が上がってくるから、「ちょっと性能は低いけど、そこそこ使えるよね」みたいなものが、いろんな分野で出てくる。
例えば、いろんな部屋の形や置いてある家具などを回避する方法を、全て最初から対応したお掃除ロボットは作れない。もし、作れてもコストがかなりかかる。
それを『汎用人工知能』ができれば、いろんな部屋ごとに自動で学習し対応するものを作ることができます。そうすれば、コストを抑えながら、いろんな問題解決(この場合、いろんな部屋への対応)ができるようになる。
複雑な機構のロボットや大規模なロボットを作る場合も、制御などの設計コストを落とせますし、災害救助ロボットでは、作業中に障害物に止まったりしないよう学習できるロボットができますよね。
要は、自分で世界に興味を持って、動き回り、いろんなことを試したり、考えたりしてくれる『自律性』を持ったロボット、いってみれば“お任せ学習機能”がついたロボットですね。
いちから人間が教材を揃えないと学べないようなものでは、とても手間(とお金)がかかる子(ロボット)になっちゃうので>
そういったロボットが、徐々にいろんなことを学んでいくと、将来どうなるんでしょうか?
山川先生、
<期待できるのは、AIのサイエンティストです。AIが世界を知ることにより、科学者と同じになり、科学技術を進化させる。
例えば、
・医療技術が進歩して病気が少なくなる
・環境問題を解決する方法などを考える
・地域紛争などグローバル問題の対応策を考える
・社会が豊かになる
などといったことが、AIを良く使うことで期待できると思います。>
AIが、明るい未来を作るカギになる?!
後編では、汎用人工知能はどうやって作るか? いつできるのか? などについて迫ってみる。
【取材協力】
※ 山川 宏 – ドワンゴ人工知能研究所
1965年生まれ。東京理科大、東京大学大学院での研究を経て、富士通研究所入社。
現在は、ドワンゴ人工知能研究所にて所長を務める。電気通信大学大学院情報システム学研究科客員教授。工学博士。
また、人工知能学会の副編集委員長にして汎用人工知能研究会主査。
専門は、人工知能、特に、認知アーキテクチャや概念獲得。