人権団体の「AV女優強制出演」報告書が各方面から非難される理由【3】 (3/3ページ)
だが、お高いマンションになるほど住民の質にうるさい場合が多く、正直に職業を明かそうものなら相手にもして貰えない。日本でも「職業差別は悪いことだ」と常識のように言われているが、実際は誰も声に出して差別発言をしないというだけで、より陰湿な形で職業の貴賎が社会のシステムに組み込まれているのだ。
より深刻な話では、何らかの犯罪の被害者として警察に相談しに行っても、職業がセックスワークと知れるやこっちが疑われるハメになるという実例もある。例えば性犯罪の被害に遭ったと親告しても「アナタにも落ち度があったのでは」といったお約束の暴言だけではなく、裏にヤクザでもいて美人局の類でもやろうとしているのでは的な疑われ方をした女性までいた。
このような状況のままで良いはずはないが、それでも今すぐに劇的に改善するのも不可能である。よって、酷い目に遭う女性を減らすためには「裸商売のリスクを背負う覚悟がないならば、安易な気持ちでやるべきではない」と言うしかない。入ってみて思っていたものと違ったと感じるのでは手遅れで、その前段階でブレーキをかけさせねばならない。
セックスワークの世界は「入るまでは厳しく、入った後は意外に優しく、出る時は自分の存在を忘れて貰える」が理想であり、これは先人達が女性を守る為に編み出した知恵でもある。だが、AV業界人はこのような当たり前の話をしたがらない。業界に入ってくる女性(商品)が減れば、自分達の収入の減少に直結するからであろう。
言ってみれば、AV業界は昭和の時代から引きずっている歪みを内包し過ぎており、抜本的な解決ができていない。それなのに産業として膨れ上がり、「そもそも真っ当ではない」という意識もないまま業界入りしてくる人間が増え過ぎた。その状況に危機感を持てず、「儲かればいいや」で何ら具体的な対策を講じられなかったことが、AV業界の最大の罪だと言える。それを考えると、HRNに好き放題言われても仕方のない土壌を作ってきたのは、他ならぬAV業界人なのだ。
※続く
Written by 荒井禎雄
Photo by Brett Jordan