北の植林事業が失敗する訳 (1/2ページ)

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北の植林事業が失敗する訳

以前、中国の雲南省のある田舎町が、緑化事業を行うと称して山を緑のペンキで塗り、世界的に「笑い話」として取り上げられたことがあった。一方の北朝鮮では、全人民が総出で「山に木を植えるふり」をしている。北朝鮮の社会システムが機能不全に陥っている状況を端的に示す「笑えない冗談」だ。

北朝鮮において緑化事業のきっかけとなったのは、2015年の「新年の辞」。この中で金正恩第1書記は「森林の回復戦闘を力強く繰り広げ、祖国の山々を緑の森に覆われた黄金山に転換させなければならない」と述べた。

住民は薪を得るために、あるいは山を開墾して食料を得るために、山の木を手当たり次第に切り倒した。そのせいで、保水力を失った山が大雨の度に崩れ、90年代末の大飢饉「苦難の行軍」へとつながった。金正恩氏は、農業復興や防災のために、緑化事業が喫緊の課題であると指摘したのだ。

しかし、社会のあらゆる分野で虚偽報告が常態化している北朝鮮では、山から引っこ抜いた木を別の山に植え替えたりする手法で、適当な数合わせが繰り返された。そのせいで、むしろ森林面積が減少してしまった。

そもそもこの植林事業、日にちの設定から間違っている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局から「70日戦闘に合わせて木の苗を数十万本植えろ」との指示が出された。それに基づき、植樹が行われるのは、3月2日の「植樹節(みどりの日)」だ。

元々、植樹節は4月6日だったが、国家指導者のエピソードに基づき3月2日へと変更された。金日成氏は、金正淑夫人とまだ幼子だった金正日氏を連れて平壌の牡丹峰(モランボン)に登り、戦時中の松脂取りや軍需用で乱伐されハゲ山になった森を見下ろした。そして「山と野に木を植えることについて」という指示を出した。それが1946年の3月2日だった。

しかし、平壌と違い北部国境地帯の3月の平均気温はまだ氷点下だ。木の苗を植えるには、固く凍った地面を掘らざるを得ず、木が根を張るまでは徹底的な管理が必要だ。非常に不合理な日程なのだが、金日成氏のエピソードが絡んでいるため、異議を唱えると政治犯扱いされかねない。

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