作家・冲方丁「すべてのメディアの根底には活字が存在している」~物語に耳を傾ける人間力 (2/2ページ)
先生に「なんで君は美術部なのに絵を描かないんだ」と呆れられるほどでした(笑)。
身体が言葉を求めていた――。そう実感しました。それで、高校時代の終わりから本格的に小説を書きはじめました。ただ当時、「活字離れ」という言葉が流行っていた。その原因はアニメやゲームだとも言われていた。けれどそれは本当なのか。確認するために20代のころ、小説だけでなく、アニメやマンガ、ゲームの原作や脚本も手がけました。ジャンルを横断して修行するなかで、すべてのメディアの根底には活字が存在していると確信した。安心して、一生小説に邁進できるぞ、と。
そんな時期に書きはじめたのが、架空の都市マルドゥック・シティを舞台にした警察クライムもののテイストを盛り込んだSF小説『マルドゥック・スクランブル』。ぼくはひとりの人間の価値観とは、その人だけで生み出しているのではなく、複数の人間が存在し絡み合うなかで生まれると考えています。だから15年続けたシリーズ最新作『マルドゥック・アノニマス1』の主人公はバロッドの相棒だった知恵を持つネズミにしました。当初は、人間の善意や良心のメタファーとして書いていたから、主人公にするつもりはなかった。でも、マルドゥック・シティという舞台と登場人物が織りなす物語の要請に耳を傾けてみると、次はこれしかない、と思えた。
たとえ創作に行き詰まっても物語の、そして登場人物たちの裡なる声に耳を傾ければ、必ず答えは見つかると信じているんです。人間がそこにいるのは偶然だけど、意志を持つことにより、必然になる。SFでも時代小説でも現代小説でもファンタジーでも人間の裡なる声を描きたい。いつもそう考えているんです。
撮影/弦巻 勝
冲方丁 うぶかた・とう
1977年、岐阜県生まれ。96年、『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞し、デビュー。その後、小説、漫画原作、ゲームシナリオなどを手掛け、03年に『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞。10年には時代小説『天地明察』で、吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞し、一躍脚光を浴びた。そのほかにも『光圀伝』(山田風太郎賞受賞)など数々のヒット作を世の中に送り出すほか、物語が持つ力に付いて述べた新書『偶然を生きる』を出版するなど幅広く活躍中。