【フランス都市巡り】仏文学者・辰野隆と、あてもなくパリをさすらう (1/2ページ)
「パリという都は、大した都だなあ!」
「全くだね、作りあげたと云うよりも、自然に出来あがったという感じだね。急に拵えたんでは、この、しっとりとした味は出せない。」
パリの街をあてもなくさすらいながら、こんな会話を友人と交わしたと書き残したのは、20世紀に生きたフランス文学者にして随筆家の辰野隆(たつの ゆたか、1888年3月1日 – 1964年2月28日)だ。
東京、ロンドン、ベルリン、ニューヨークなどの大都会の名を挙げつつ、それらには「とげとげしい感じ」や「力んだところ」があって、「人を落ちつかせない」と続ける。
エッフェル塔、凱旋門、ノートル・ダム寺院、パンテオンなどの巨大な建造物がパリにもあり、東京タワーやビッグベン、ベルリンのテレビ塔やエンパイアステートビルなど、巨大な建造物という点ではほかの大都市と変わりはしない。
しかし、パリの街々をあてもなくさすらってみると、他の大都市で感じるような仰々しさやけばけばしさは感じることができず、パリという場所が日本からは遠く離れた異国であっても、どこか落ち着く感じがしてしまう、そんな気がするのは、何故だろうか。
その疑問にもまた、辰野隆が一言で答えてくれるかもしれない。
その答えが「調和」だ。
辰野隆は東京の街にはなくてパリの街にあるものを、「自然と人工」または「街の形式と住民の生活」の「調和」と呼んだのだ。