大麻のせいで19人殺害?懸念される”医療大麻”への影響を考える

デイリーニュースオンライン

Photo by emiliokuffer
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 7月26日に発生した障害者施設19人殺害事件で、逮捕された元職員の植松聖容疑者(26)が、かつて「大麻精神病」「妄想性障害」と診断されていたことが分かりました。

 時を同じくして25日。医療大麻裁判の被告であった末期肝臓がん患者の山本正光さんが亡くなり、公訴棄却となりました。

■がん治療のために大麻を使用

 山本さんはがん治療のために自宅栽培した大麻を用いていました。ですが、現在の日本の大麻取締法では医療目的であれ所持は違法となっているため、逮捕され、裁判中でした。大麻の医学的効能は国際的には現在も議論中ですが、山本さんのケースでは大麻使用後に治療効果が出始めていたようです。しかし、勾留された後、大麻が使用できなくなってからは体調が悪化し、病死しました。

 この一例をもって大麻とがん治療の因果関係を断じるのは早計です。ですが、少なくとも山本さんの主観・体感としては大麻は特効薬であったはずで、それを法で取り上げるのはなんともむごい話に思えます。山本さんは生前、「自分の病気を治療するために使用して逮捕されるようなことは私を最後にしてもらいたい」と訴えていました。

 薬に効能と副作用があるのは当然ですから、問題はそのリスクとリターンを見極め、評価することでしょう。個人的には、医療大麻は少なくとも臨床試験が行える状況にして、その見極めのために研究を開始すべきだと思います(現在は臨床試験すらできません)。研究すらせずにリスクを過大視する風潮は科学的・合理的とは言えないからです。

 落選しましたが、先の参院選ではナチュラリストの高樹沙耶氏(52)が「医療大麻の解禁」を訴えて出馬しました。高樹氏への反応はまだ「キワモノ扱い」が多かったように見えますが、それでも医療大麻問題は少しずつ認識されてきたように思います。山本さんの裁判に判決が出れば、「やむをえない事情」における大麻使用が認められた可能性があり、そこから医療大麻問題にグッと踏み込めたかもしれません。山本さんの病没により、控訴棄却となったのは非常に残念です。

 そして、そこに今回の障害者施設殺傷事件が発生し、容疑者に大麻使用の前歴があったということで、個人的にはこれからの流れを非常に危惧しています。山本さんの一例だけで大麻使用とがん治療の因果関係を断じることができないのと同様に、植松容疑者の一例で大麻使用と大量殺人の因果関係を断ずることもできません。(大麻の医学的効用が「ある」「ない」と議論されているのと同様に、精神病に関する副作用も「ある」「ない」と議論されています)

 よって、どちらの事例も多数の大麻使用例の内の一例として処理すべきなのですが、いかんせん今回の事件はインパクトが大きい上に、大麻は非常に分かりやすい「答え」に見えるため、世論がそちらに流れ、過度に悪いイメージが付いてしまいそうな気がします。

 今は元気な私たちも、いずれはがんを始めとする難病にかかるかもしれません。そして、その時に、大麻の医学的有効性が確認されていながらも、法整備が追いついていないという状況に直面するかもしれません。必要なのは正確な認識であり、そのための研究です。今回の事件のインパクトで、その流れにストップが掛かってしまわないことを切に願っています。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

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