【不朽の名作】膨大なエピソードをコンパクトに詰め込む絶妙さに注目「学校」 (2/3ページ)
ひとつはクロちゃんに鼻毛切りを皆で買ってあげたとカズが言うシーンで、ここでクロちゃんが鼻毛ごと肉を切ってしまったので、以前通り手で抜いていると明かすと、全員が爆笑する。ここが生徒とのわだかまりが解けている証明となっている。もうひとつは、給食を皆で食べるシーンで、ここでは、クロちゃんと生徒たちがテーブルを並べて食事をしている。同じ食卓で食事をするほど気を許している仲ということがここで簡潔に描写される。「一緒に笑っている」「楽しく食事をとっている」と、少ない描写で、教師と生徒の距離が非常に近い事を、細かい部分に注目していなくても、こういったなんでもない日常描写を盛り込む事で、視聴者に強く印象づけているのだ。
後半部分を使って扱う、クロちゃんの生徒であるイノさんの死は、教師ドラマ『3年B組金八先生』の一期で当てはめれば「生徒の妊娠」。二期に当てはめれば「校内暴力」に当たるメインテーマを扱う部分だ。冒頭からイノさんは入院しており、本来ならばここで一から説明しなければならず、ダレる危険な状況になるのだが、同作はその部分も巧みな演出で最小限に抑えることに成功している。実は前半の個別の回想シーンで、名前は特に強調していないが、イノさんが登場している。
回想シーンでは、他の6人の生徒の他に、一緒に授業を受けている謎の人物がいるので、かなり印象に残る。後半のクロちゃんの回想シーンでようやくその人物がイノさんだと明らかになるが、既に他のシーンで見たことがあるので、意外とすんなりと「どんな人だったんだろう?」と興味を持てるようになっている。その後は、寅さんシリーズに代表される、山田監督作品らしい、笑いや人同士のちょっとした衝突を盛り込んだ、人情味あふれるエピソードが続くようになっており、イノさんの人生最後の数年間を追体験できる仕組みだ。正直恥ずかしいくらい手垢つき過ぎな展開で、ありふれたエピソードだ。しかし、寅さんなどで、毎年そういうベタベタの展開でお話を作ってきたスタッフが、絶妙にテンポやシーンを調整してイノさんのエピソードを構成しているので、もの凄い勢いで泣かせにくる。
そして、ラストのホームルームのシーンで、イノさんの死を受け「幸福」について話し合う場面、ここで普通の中学校と夜間中学の大きな違いが描写されることになる。