真夜中の墓場で遊ぶ、ある子どもの話【ささや怪談・最終回】 (1/4ページ)

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Photo by jb, on Flickr
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「その子にとっては、お墓が唯一安らぐ場所だったんだって」
セイさんは、穏やかにそう言った。

わたしたちは、怪談を集めて、発表するイベントを行っている。
他のメンバーは、イデマチという男と、ヒラタユミさんと米田智貴くんの四人だ。
この四人で、クロイ匣(ハコ)という団体を運営している。
今日は、みんなで集まって、Kという和菓子屋を訪れた。
何ということはない。
わたしたちは、何となく話しているだけでも、楽しかったからだ。
話題は、いつしか怪談のことになる。
すると、お店で働いているセイさんが、
「そういえば、昔ね...。実家で、こんなことがあったんだって」と、語り始めた。
わたしは、レコーダーのスイッチを入れた。

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大正時代。
セイさんの大叔父さんにあたる方の話である。
「今でいうところの、ぼんだったのよ」
彼のことは、S君としておこう。
小学校の低学年で、身体の弱い子だった。
友達も、いなかったそうだ。
彼には、ちょっと変わったところがあった。
夢遊病である。
彼は、夜な夜な、布団を抜け出して、どこかに出かけることがあった。
明け方になると、ふらりと戻ってきて、そのまま自分の布団に入ってしまう。
「よく、足の裏を泥んこの真っ黒けにしたままで、寝てたんだって」
彼は、自分がどこにいたのかを憶えていなかった。
こんなことが続いたものだから、家族も放っておくわけにはいかなくなった。
それで、小作人たちに見張りを頼むことにした。

ある夜のことである。
S君は、眠った時のままで、屋敷の外に出て行った。
闇夜の中を、提灯ひとつ持たずに。
「その時代は、街灯も無いし、夜中でしょ。なのに」
彼は、村の外れにある墓地へと、まっすぐに走って行った。
転びも躓きもせずに。
墓地にいるのは、彼だけだった。

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