吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー村本大輔「自分は人間関係も器用なキンコン西野とは違う」(2)

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吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー・村本大輔  「日本のお笑いをカッコいいと思わなくなった」
吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー・村本大輔 「日本のお笑いをカッコいいと思わなくなった」

 プロインタビュアーの吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。人気お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんをゲストに迎えた第2回をお贈りします。海外のスタンダップコメディアンに刺激を受けているという村本さんが、今の日本のお笑い業界をどのように見ているのか、歯に衣着せずに語っていただきました。

吉田豪インタビュー企画:ウーマンラッシュアワー村本大輔「ベッキーの時も少し多めに殴ってない?と感じていた」(1)

■精神的に追い詰められた状況がうれしい

──村本さんはラジオのときもそうですけど、基本そうやって波風を立てたがる人ってイメージありますよ。

村本 単純に協調性がないんですよ。あとはかわいげがないんでしょうね。たとえば茂木健一郎さんの話があって、楽屋である先輩が「茂木健一郎なんやねん、あいつ気持ち悪いわ。時事ネタとか政治の皮肉なんて何もおもろくないわ。差別とか言ってるだけやんけ、アメリカのコメディアンは」って言ってて。その1時間後ぐらいにその先輩が外国人の芸人に、「やっぱおまえあれか、外国人やからギャラ安いんか?」って言ったんですよ。そのとき「さっき差別がどうとか言ってたのに、言ってるじゃないですか」って言ったら、「……なんやねんおまえ」みたいな。

──わざわざ指摘しちゃったんですか(笑)。

村本 柔らかく指摘してしまったら、「うるせえな」みたいな。だから、どっか欠けてるのかもしれないです。今度『土曜The NIGHT』でおもしろい企画があって、精神病院の先生4人に診てもらうってことを考えてるんですけど、どっか何かおかしいと思うんですよ。

──自分でも明らかに何かが欠けている気がする。

村本 それを聞いてから、それでいくと決めようかなって。それがいいことかどうかわかんないですけど、1回しかない人生なんで好きなように言わせてくれよと思うんですけどね。

──こういう仕事してる人は、ある種の病を持った人のほうがおもしろいことが出来るとボクは思ってますけどね。

村本 そうやって俯瞰で見てくれるとありがたいです。

──ある意味、アスペルガー的なタイプとか。

村本 そう! 

──他人の感情が理解できなくて人間関係はうまくいかなかったりしますけど、それが武器にもなるんですよ。

村本 エゴサーチするとたまに「いましゃべってる芸人の村本とかいうヤツ、私のアスペルガーの弟としゃべり方が一緒」とか出てきて、僕、そのときにハッとするんですよ。なぜかというと、東京に来たばっかりのときに変なオバハンからファンレターが届いて、「おまえはアスペルガーだ、精神病だ」っていうのがずっと来てたんですよ。こいつヤベえなと思って、「こいつヘタしたら刺してくるからちょっと弁護士に渡しといて」って、手紙が山ほどあったんで。でも、全部腑に落ちました。

──昔から指摘されてたんですか(笑)。

村本 当たってるやん(笑)。なんかね、常に快感なんですよ。それがお笑いなんちゃうかなって。でも、僕の責任でしゃべって僕の責任で淘汰されて消えるだけの話なのに、みんなは許してくれないんですね。まあ、向こうには向こうの言い分があるんで。勝手な言い分ですけど……。

──でも、最近は別の世界の人と交流することで、なんとなく居場所を見つけた感じには見えますよ。

村本 そうですね、たしかに。AbemaTVで知り合ってからずっと堀潤さんがよくしてくれるんですけど、堀潤さんが最近、仲間たちとオンラインサロンとか立ち上げてるの見ると、ちょっと「ん?」ってなるんですよ。

──なんですかそれ?

村本 嫉妬みたいな感情で。

──ダハハハハ! 「俺よりも仲いいヤツがいるのか!」みたいな(笑)。

村本 ちょっとなんか……おかしいのかもわかんない。

──人との距離感がおかしいですよね。

村本 距離感が。「おまえもか!」っていう謎の言葉が浮かんでしまうっていう。

──「おまえも裏切るのか!」って(笑)。

村本 なんかね……ヤバいんですよ。追い詰められるとヤバいんですよね。公衆便所で小便してて、サラリーマンのオッサンが横に立ってチャック下ろして、「はぁー」って言ったんとき、「知らんがな!」って思ったんですよ。「なんだいまの『知らんがな!』って」ってすぐ思って。こんなオッサンのため息ひとつに俺は「知らんがな」って反応した、ちょっと追い詰められてるのかな、みたいな。でも、それがいいものできそうみたいな、うれしい状況でもあるんですよ。だから、ずっとこれなんでしょうね。

──精神的に安定はしない。

村本 ずっと精神不安定な状態なのかもわかんない。

■日本のお笑いより海外のコメディアンに刺激を受ける

──だけどTwitterは昔と比べたらだいぶ落ち着きましたよね。昔はもっと無差別にケンカしてたじゃないですか。

村本 してました。ただ、よくTwitterやってる有名な人が「こんなリプがあった」とか言うんですけど、それってすっごい簡単なことしてるなと思ってきて。だってTwitterのアンチみたいなやつなんて、言ってみれば全員天然キャラ芸人ばっかりじゃないですか、ツッコミどころ抜群の。ここに手をつけるのはもういいんじゃないか、みたいな。ライブで大衆の前で「Twitterでこんなことがあってね」とか話してるときに、すっごい世界が狭い気がして。昔テリー伊藤さんに僕の独演会のDVDを観てもらったときに、「半径5メートル以内のことばっかりなんじゃない?」って言われて、たしかになと思って。

──それはTwitterでよくケンカしてた頃?

村本 ケンカに明け暮れてたときですね(笑)。それでたしかに世界が狭い気がして、海外のコメディアンを観てたらおもしろいな、世界が広いなと思って。あるエジプトのコメディアンがいて、前の大統領の独裁政権のときに芸人を始めて、大統領の皮肉ばっかり言うんですよ。それで何回も逮捕されるんですよ。コメディにしたら逮捕されるような国にいて、番組も終わらされたりするのに、それでも皮肉を言うんですよ。で、「世界一危険なコメディアン」って言われて、命を奪われそうになっても独裁者の悪口を言うんです。それってカッコいいなというか。

──そういうコメディアンに刺激を受けるようになって。

村本 日本のお笑いの人を知れば知るほど、売れてる人を知れば知るほど、早いけどちょっと頑張ったら追いつくかな、ぐらいの感じで、そんな驚きはしなくなってきてて。海外の闘い方とか生き方とか、せっかくお笑いを名乗ってるんやったら同じ闘い方してたら……だから村なんですよね。何人かの長老が村のしきたりみたいなのを決めて、みんなそのなかでやっていくから。だから吉本が……って言ったらアレですけど、コピーロボット大量生産工場みたいな感じがして。

──ほかの自由な村を知っちゃったわけですね。

村本 はい。そこはもっと広くて、だから日本のお笑いをカッコいいと思わなくなったというか。

──茂木さんは罪作りなことしましたよね、こういうタイプの人に教えちゃいけないことを教えちゃったっていう。思いっきりスイッチ入ってるじゃないですか。

村本 そうです(笑)。今度ライブがあって、茂木さんにゲストで来てもらおうと思ってオファーしたらOKしてくれたんで、やりましょうってことになってるんですけど。……これからお笑いはどうなるんですかね?

■自分の作ったネタで人を集めて大金を稼ぎたい

──村本さんとちょっと考え方が近いのはキングコングの西野(亮廣)さんかもしれないですね。吉本興業という枠から外れて何ができるのかを探っているっていう意味では。

村本 あぁ……。吉本にいたらそうなるかもわかんないですね。それこそ同期の芸人に言われることがあって、「おまえは肉をえぐってるんだ。だからみんな嫌がるんだ、損するんだ」と。「でも芸人って、芸人以外の人の肉はえぐるくせに、自分がえぐられたらめっちゃ守りに入るやん」って言い返すんですけど。で、海外のスタンダップコメディの話をすると、「海外は海外なんだよ。おまえは日本でやってるんだし、吉本でやってるんだから、吉本には吉本のやり方があるんだよ」って言われたとき、この考え方は怖いなと思って。「吉本の芸人なんだから」とか「テレビに出てるんだから」っていう考え方が……テレビに出たら、そこには吉本っていう明確なルールはないじゃないですか。これを言っちゃいけないとか勝手に何人かが決めて、ないルールを勝手に作って、「ここから出ちゃダメですよ」みたいな。これって怖いなと思って。そんなことよく言えるな、ニューヨークに行くくせにと思って。

──えらいピンポイントな悪口になってますよ!

村本 でも、僕はお笑いしか……西野みたいに絵がうまかったらあんな感じでできていいですけど、たまたまこのツールしかないので。あと、めちゃくちゃ稼ぎたいんですよね。吉本はいっぱい劇場ありますけど、8割は死人の顔で漫才してるというか……。

──うわー!

村本 カラオケの文字が浮かんでくるかのように同じセリフをずっとしゃべり続けてる死人ばっかりがね。朝4時ぐらいのカラオケですよ、みんな。それを見てたら、ここにおったらあかんなというか、ここにおってもいいけど、ここを変えなあかんというか、このまま歳だけとっていったらヤバいぞと思うんですよね。だから、なんとかしたいなと思ってるんですけど。

──稼ぐとなると地上波が一番なんじゃないですか?

村本 でも、それって500万、600万とかの話ですよね? あと、テレビが合ってるのかなというのと、ほんまにそれやりたいんかっていうのがあって。特に『土曜The NIGHT』みたいな番組で味をしめてしまうと、たしかに地上波って顔は売れる、お金もらえる、それに関してはいいですけど、顔を売って小銭を稼いで時間を費やしていくのって大事なんかなと思って。もっともっと100パーセント満足できる仕事をやり続けたほうが大きい金につながるんじゃないかなという感じはありますね。

──最近、あからさまにAbemaの仕事が増えてますけど、Abemaはたぶんギャラ単価は安いじゃないですか。

村本 Abema、最初はちょっと高かったんですよ。それが噂なんですけど、ほかのテレビ局の人に「芸人にそんなやらなくていいよ」って言われて、それから急にガーンと落ちたって(笑)。だから最初の芸人は高かったんですけど、いま急に単価が安くなってる。不健康なことは極力……地上波も呼ばれたら出たいし、出ますけど、「出たいし」とか、なんなんかなと思うようになって。ワシはグラビアアイドルか、なんでもいいから出たいんか、みたいな。それってどうなんかなとか。テレビだけなんかな、どうなんかな……Netflixのスタンダップコメディの影響かな。

──そこも茂木さんきっかけ!

村本 スタンダップのコメディアンが5万人集めて舞台の上で好きなことしゃべって金を稼いでるの見たら、すごい夢があるというか。自分の作ったもので大金を稼ぎたいなって。テレビに出てる芸能人でおもしろい人がいても、所詮全員で作り上げてるものやから、いわばテレビ新喜劇で。それよりも1対1でちゃんと勝負したいというか、俺はひとりでネタを作るみたいな、勝手に自分の都合いい方向に理由をいっぱいつけて自分を鼓舞してますけどね。

■自分は人間関係も器用なキングコング西野とは違う

──ちょうどいろいろ迷ってるタイミングで取材に来ちゃったんですね。

村本 そうです、ホント迷ってるというか。有名なテレビとかも、断るのもダメだし、でもこれやらなきゃいけないかなとか思うことが多いというか。それすら口に出しにくいじゃないですか、「生意気だ」とか「偉ぶるな」とか言われるから。すっごい気持ち悪い気がするんですよね。気持ち悪いことが多いんですよ。

──そういうことに抗いたいわけですよね。

村本 言ってやりたいんです。そしたら今度は自分がスカッとするかなと思いますし。でも、あんまり賢くないんですよね。西野は賢いんですよ。

──西野さんは人間関係もうまいですよね。

村本 うまいんですよ、器用なんです。

──西野さん、ネット上では嫌われるけど、会って嫌う人はあんまりいないと思ってて。

村本 たしかに。

──キングコング梶原(雄太)さんは逆らしいんですけどね(笑)。

村本 ハハハハハ! たしかにそうですね(笑)。アフリカのトレヴァー・ノアっていう有名な黒人のスタンダップコメディアンがいるんですけど、向こうもコンプライアンス厳しくて、黒人をネタにしたら叩かれる。でも、そういうことを言うんで、「なんで言うんですか? 仕事なくなりますよ」って聞かれたら、「どうせまた貧乏になるだけでしょ」ってあっさり言うんですよ。そういう姿勢でいたいなって。毎回勝負しながら、その姿勢でいたいなって思うんですよ。あと同期のヤツに、「誰かに認められて初めてそれができるんだぞ。まだおまえはそこまでじゃないんだ」って言われたんですけど、認める側、この人が言うんだったら間違いないっていう側にはなりたくないと思って。選ばれる側じゃないとダメなんじゃないかって。芸人はもうダメですね、あんまり魅力的なのいないですね。

──そう思うぐらいまでになっちゃったんですか……。

村本 西野も漫才とかネタはやってないですからね。

──そうですね、フリートークの独演会はやっているけど。

村本 こっちはネタでヒリついて拍手笑いさせたいなっていう。「よく言った! おもしろいこと言うね、こいつ」って。なんかオッサンがガッツポーズ取れるようなことは言いたいと思いますけど。

──西野さんはテレビと距離を置きながら、やっぱりうまいことやってっるじゃないですか。先輩ともうまくやれてるし、いざテレビに出たときのイジられ方もうまいし。

村本 たしかに! そこなんですよ。僕は違うんですよ。僕はレスラーでいうと、ロープに投げられたらロープを越えて走って逃げて、爆弾を作って戻ってくるタイプです。ダイナマイトくくりつけてワーッと。西野はちゃんと跳ね返りますから。

──西野さんは、文句を言いながらもちゃんと付き合いますからね。

村本 文句言いながらもきれいに跳ね返りますよ、あいつは。

<次回に続く>

プロフィール


ウーマンラッシュアワー

村本大輔

村本大輔(むらもとだいすけ):1980年、福井県出身。様々なコンビを経て、2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年にはTHE MANZAIで優勝する。個人でも幅広く活動し、2015~2016年にはラジオ『ウーマンラッシュアワー村本大輔のオールナイトニッポン』のパーソナリティを務め、現在Web番組AbemaTV『ウーマンラッシュアワー村本大輔の土曜The NIGHT』、『Abema Prime』(https://abema.tv/)のMCを務めている。ソロライブ『ウーマンラッシュアワー村本の大演説』を全国で開催しており、7/2(日)には大阪・なんばグランド花月にて開催する。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の空手★バカ一代』などインタビュー集を多数手がけている。コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題を呼んだ。

(取材・文/吉田豪)

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