デフラグビー『クワイエット・ジャパン』、オーストラリアに勝った!
クワイエット・ジャパン。下段中央が大塚主将。上段左端が落合監督。隣が日野会長
『ワールド・デフラグビー・セブンズ』(World Deaf Rugby 7`s)が始まっている。
聴覚に障がいを持つ人のためのデフラグビー。世界15カ国14チーム(単独チームが構成できない国の選手は、混成チームに参加)がオーストラリアに結集した。
シドニー郊外デーシービルにあるデイビッド・フィリップス・フィールドが戦いの舞台だ。4月23日から始まった。
日本代表「クワイエット・ジャパン」のキャプテンは、帝京大学出身の大塚貴之。卒業後は、パナソニックに入社。現在はワイルドナイツプロモーションズに所属し、ラグビー、そしてデフラグビーの普及活動に励んでいる。
FWの注目は早稲田大学ラグビー部3年の岸野楓。デフラグビーとの出会いは中学生時代。その時以来、目標はデフラグビー日本代表になることだった。
予選初日の日本代表の初戦の相手は、優勝候補のウエールズ。パワフルな相手に対し、スピードとスペースへのアタックで対抗するはずだった。
しかし、多くの選手にとって初めての国際試合であり、経験したことのないパワーと腕の長さに直面し、ボールを保持できない。ターンオーバーからトライを失い、0-36で初戦を落とした。
しかし「日本のデフラグビーの未来のために戦おう」と、前夜のミーティングで誓ったクワイエット・ジャパンは、まったく気を落とすことなく、ホスト国オーストラリアとの第2戦に挑んだ。
実は、デフラグビーのセブンズ大会は、16年前にエキシビジョンとしてニュージーランドで開催されている。その時の日本代表は、ニュージーランド、ウエールズを破り、決勝でオーストラリアと対戦。惜しくも破れて準優勝となった。
当時のキャプテンが、現監督の落合孝幸である。
「監督のリベンジをしてやろう」
試合前の円陣で、大塚主将は手話でそう呼びかけた。
ところが試合開始早々にアクシデントが起こる。ジャッカルに入った大塚が足を負傷。そのまま途中退場となったのだ。
しかし、その直後の前半3分。BK鮫島功生が判断よくインゴールに転がしたボールを、岸野が押さえて今大会チーム初トライ。5-0とリードを奪った。
オーストラリアは体格差を生かしてラックサイドをついてくるが、ジャパンも激しいタックルで対抗。後半5分にトライを奪われて5-7となるも、試合終了直前に相手のペナルティからチャンスを得た。ここでBK蛇目尚人の判断が光った。大外に待っていたFW日野敦博にパス。日野が30mを走りきって逆転勝利を決めた(10-7)。
日野は普段は大手建設会社勤務。さらに日本聴覚障がい者ラグビー連盟の会長を務める。同連盟のNPO法人化、この遠征に対する協賛金の獲得という難事業を、落合監督、大塚主将らと共に実現させてきた。
「ラグビーを通した平等」という理念を訴え、多くの賛同を得たので、仲間たちをこうして連れてくることができた。日野にとって、それまでの苦労が吹き飛ぶ大逆転トライだった。
第3戦の相手はフィジー。日本は怪我人が多く出た影響でメンバーを変えて挑み、0-21で敗れた。
それでも、村上智大、宮田翔実らの若手が貴重な経験を得た。2日目以降の試合でも活躍が大いに期待される。
大会2日目の24日は、ウエールズ・バーバーリアンズ、イングランド、ドラゴンフライズ(アルゼンチン、香港、イタリア)の混成チームと対戦する。
そして26日には決勝トーナメントが行われる。
(リポート/柴谷晋)