【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第6話 (3/4ページ)
「綺麗だよ、紫野」
紫野という源氏名で呼ばれたみつは、淡く微笑み返した。
誰よりも千本桜の良く似合う、凛とした花魁の表情が、そこにあった。
画像:筆者
長兵衛が大門の向こうに見えなくなった後、みつは振り返ってしばらく立ち止まり、茫然と桜を眺めた。
歌川国貞「あづまの花 江戸繪部類より北廓月の夜桜 」国立国会図書館
門脇の四郎兵衛会所から、三、四人の若い男衆が訝しむようにこちらを見ている。
逃げやしないかと見張っているのだ。
花魁と言えども、籠の中に飼われた女郎である事に変わりはない。
口では褒めそやしながらもどこか疑うような品物を見るような、そういう冷たい視線にももう慣れている。
小さなくちびるから嘆息が漏れた。
日が出る前に部屋に戻ろうと気怠い足を引きずるようにして歩き始めた時、
「みつ!」
振り返ると、大門の向こうに国芳が居た。