【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第7話 (3/6ページ)
「めえにつまらねえと言われてから、どんな絵が面白えのか毎日ずっと考えてるよ」
国芳は何枚かめくって、往時の数少ない当たり作を取り出した。
「これなんかけっこう売れたんだぜ。わっちが二十三の時に描いた分」
画像:国芳「平知盛亡霊と弁慶」Wikipediaより
「おみつ、猿楽の船弁慶は見た事あるか」
「廓内(なか)から出られないんだもの、見れるわけないよ」
「そうだよな。安心しろ、この絵を見りゃ一発だ。見てみろ、これア平知盛(たいらのとももり)の亡霊と弁慶たちが対峙してる絵だ」
「はあ」
「義経は知ってるだろ」
「ええ」
「義経は兄貴の源頼朝から逃げるために弁慶らを連れて舟に乗り、大物浦(だいもつのうら)からざぶんと海に漕ぎ出した。ところがどっこい簡単には進まねえ。