【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第7話 (2/6ページ)

Japaaan

「これ、前、あたしに似てるって言ってくれた花でしょう」

「そうだよ」

国芳は照れくさそうに目を線にして笑った。

「約束どおり、こいつを見せたくて来たんだ」

素直に会いたくて探したと言えばいいのに、国芳はこんな小さな花に理由を求めないと惚れた女に会いにも来れない。

「嬉しいよ、ありがとう」

みつは目を細め、柳のような身で男にしなだれかかった。

「でも国芳はん、気をつけてね。こっちのたんぽぽは、噛み付きますよ」

「イテッ」

国芳の逞しい腕に、カリッと小さな歯が立てられた。腕に付いた可愛らしい歯形を見て、国芳はわざとらしく嘆いた。

「しまった、こいつアたんぽぽなんて可愛いもんじゃねえや。子ねずみの見間違いだった」

「もうっ!」

みつは白桃のような頬を真っ赤にして、子供のようなこぶしでぽかぽかと国芳を叩いた。

その小さな抵抗が、

(可愛い。・・・・・・)

男はそのまま力強く抱きすくめ、たんぽぽの黄色い花が女の身体とともにふわり、宙を舞った。

想いを果たした後、二人は掻巻にくるまり国芳が持参したものを眺めた。

浮世絵であった。

首に提げていた荷の中に、自分が過去に手掛けた浮世絵をいくつか丸めて入れてきたのである。

「【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第7話」のページです。デイリーニュースオンラインは、歌川国芳江戸時代カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る