【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第12話 (2/3ページ)
佐吉が巷ではそこそこ知れた狂歌師であり、浮世絵師の知り合いも多い事が分かると、近江屋の主人は手を打って喜び、自分の見世の引札(ひきふだ)代わりに錦絵を出したいので良い絵師を紹介してくれないかと持ち掛けた。
佐吉はそれならばと同居人の国芳を勧め、今回の酒宴を開くに至ったという。
「さすがは風流心のある旦那、画題は『雪月花』だぜ。良いだろう。雪、月、花一枚ずつ出して、三枚揃物にするんだ。『雪』はもう出したから、今回は『月』だぜ」
月といえば中秋の名月、十五夜の月というわけである。
「なんであちきを」
画題に選んだのか、とみつは声を震わせながら訊いた。
佐吉が全てを知っていて、わざとみつと国芳を会わせたのなら、佐吉を許す事はできない。
「何故って・・・・・・」、
佐吉は少し照れたように頭を掻いた。
「吉原の上にある月はいつも優しい。紫野花魁は、吉原を包むあの暖けえ月のようだからさ」。
画像 広重「吉原仲之町夜桜 」ボストン美術館蔵
思っていたものと違う返答に、思わずみつの肩の力が抜けた。そしてそう答えた佐吉の目が余りにもまっすぐで、みつは断る事ができなくなった。
「そうまでおっせえすなら引き受けんしょう。いつ描かさんすか」
「なんだ梅屋さん。何も言ってねえのかい」
隣に座る近江屋が屈託なく笑った。梅屋とは佐吉の狂歌師としての名である。
「もちろん中秋の名月の今日描くしかありやせんよ、花魁」
近江屋はそんな事を平然と言う。
