【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第17話 (4/4ページ)
「めえが笑ってくれるなら、わっちゃア馬鹿にでも何にでもなるさ」
みつは声を上げて泣いた。吉原の大門を潜った時からこんな風に泣いたことのないみつは泣くのが下手くそで、泣きじゃくるうちに自分が泣いている理由を忘れてしまった子どものように困惑しながら泣いた。
国芳はみつを腕の中に収め、じっとそれを聴いた。
ひとしきり泣いた後、緻密な線で濃厚に描き込まれた沢山の凧の空を見上げ、みつはぽつりと言った。
「あたしやっと、あんたの後ろに咲く花になれたんだね」
ん、なんか言ったか、と国芳が言った。
ううん、なんでもないとみつが首を振った。
「ホラ、おみつも早く凧、揚げようぜ」
「うん。・・・・・・」
約束というものは、波紋も澱もない水面に似て、ひどく穏やかで透徹している。みつがそれを知った時、ずっと咲かずにいた吉原の花が一輪、随分遅れた花をほころばせた。(第1部 了)
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