【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第17話 (1/4ページ)
前回の16話はこちら
【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第16話 ■文政八年 正月(2)ふわり、と宙を舞い、みつは国芳の腕の中に飛び込んだ。国芳はみつの身体の重みを受け、そのまま地面に尻もちをついた。痛ってえと国芳は呻いたが、腕にしっかりみつの身体を抱き止めている。
「あははっ」
傍にいた幼い禿(かむろ)の一人が大声で笑った。
子どもたちの笑顔の輪はたちまち広がり、大きな大輪の花になった。
吉原遊廓に、誰も聞いたことのないような子どもたちの笑い声が響いた。
国芳がみつの肩を掴んだ。
「おみつ、聞いてくれ」
大きな目に強い光を宿し、いつになく真剣に言った。
「確かにわっちゃア下手くそでつまらねえ絵ばかりだし、金もねえし、浮世絵師と呼ぶにゃアあんまりお粗末かもしれねえ。でも、わっちゃあ絶対エ諦めねえ。めえの目に届くまで何度でも何度でも、色でいっぱいの鮮やかな絵、描き続ける」
「うん」
かすかにみつは頷いた。
「もっともっと頭ア捻って、最後の一滴まで絞り出して、めえがびっくり仰天して笑い転げるような、今までにねえ楽しくて面白え絵、たくさん考える」
「うん」
「江戸中に名の轟く立派な絵師に、絶対なってやらア」
「うん」
みつの手にひやりとしたものが触れて、驚いて自分の頬に手をやると、気がつかないうちにぽろぽろと涙がこぼれていた。
国芳はなお、絞り出すように力を込めて言った。
「それでいつか、めえをここからかならず連れ出す」。
