五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(4)車の運転をやめて男をやめた気分に (1/3ページ)
椎名 ぼくはいまピックアップトラックに乗ってるんですが、家へ帰るときに、かつて田んぼだったあぜ道を道路にしたようなすごく入り組んだ道の狭い道を走るのが怖いんですね。
五木 へえ。いまも運転されてるんですか。うらやましい(笑)。ぼくは65歳で運転をやめたんですが、そのときは男をやめたような感じがしましたね。自分はもうハンドルを握らないんだと思った瞬間にたまらない寂しさを感じたものです。
椎名 男はそうですよね。先日、70歳以上の人が運転免許証の更新時に義務づけられた高齢者運転講習というのを受けてきました。そのときに自分の年齢をいちばん意識しましたね。
五木 ぼくはいろんな車とつきあってきたもんで、それぞれに思い入れがあるんですよ。
椎名 そうでしたね。ただ、ぼくももうじき運転はやめようと思っています。というのは、自分が事故で死ぬというのが怖いわけではなくて、いつ人を轢き殺すかわからないから。自宅近くのあぜ道みたいなところでは、路地からおばさんなんかが自転車でびゅーんと飛び出してくるし、子供もうろちょろしてるし、恐怖の道です。人を轢き殺してしまったらと考えると、そろそろ潮時かなとも思います。
五木 ぼくは車の運転にはかなり入れこんでいた時代があったんです。徳大寺有恒さんや黒澤元治さんたちと五木レーシングチームなんてのをつくってマカオグランプリなどに遠征してたりとか。
椎名 ご自分でお乗りになってたとは思わなかったですね。
五木 車の運転をやめたきっかけは、視力の低下です。新幹線に乗ってて浜松とか通過する駅がありますよね、若い頃はその通過する駅名がピタッと止まって見えてた。ところが65歳ぐらいから、それがサーッと流れて読めなくなった。つまり動体視力がそれだけ落ちたと痛感したのです。これはもうダメだと、泣く泣くステアリングを置きました。