90年代死体ブーム:ロマン優光連載127 (2/4ページ)

ブッチNEWS

他人と差異をつけたいだけの人々

 あの死体ブームというのは、死体に対するオブセッションを抱えている人が急増したというわけではないんと思うんですよ。一つには、特にそういうものはないけれど「他人と違う自分を演出するためのアイテム」として死体写真を使っている人が増えたんじゃないかなと思っています。

 あの死体ブームに乗っかってたのは、今の40代から50代前半の人たちがメインだと思うんですけど、その世代って人数が多いんですよね。あと、なんだかんだいって、たいして働かなくてもある程度金もあったり、暇がある人が多かったんですよ。かといって明るい展望もない。同世代の人数も多いわけですから、金銭や名誉、勉強やスポーツ、地道に文化を身につけるといったことから落ちこぼれたり、回避したりしながらも、他人との差異をつけたがるような自意識をこじらせた人の数も当然多いわけです。他人との差異をつけたいとするなら、一番簡単なのはアイテムを使って奇をてらうことです。奇をてらうのにも頭を使って色々な努力をすることが本当は必要だと思うのですが、人をなぞったり、ありものを使うのは楽なんですよね。物理的に生きるのが大変な状況では、他人と差異をつけるために奇をてらうなんてバカバカしいことをやってる暇なんてないんですが、金と暇がある程度あると変なことしたりしちゃいますよね。そういうことなんだと思います。また、オウム真理教や阪神・淡路大震災などの影響で、たいした根はないけど変な終末「気分」になってた人は増えていたとは思います。

 そうやってブームになっていく過程で流通がよくなり、そういうものに本来だったら触れなかったであろう人にも届くようになります。わざわざ何かを掘ったりしないけど、潜在的にゲスい刺激を求めているタイプの人たちです。そういった人が参入してくることで、さらにブームは膨れていったのではないかと思います。

『マーダーケースブック』に代表されるような殺人鬼の扱いなんかも、そういうのが反映されているような気がします。それまで一部の好事家がコリン・ウィルソンの本などを読みながら、人間という生き物の異常性に思いを馳せたりしていたのが、いきなり毎月殺人鬼のビジュアル本が発売されるようになるなんて変な話ですよ。

「90年代死体ブーム:ロマン優光連載127」のページです。デイリーニュースオンラインは、カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る