書店員だからって、本を紹介するしか能がねぇのかよ!【新井見枝香コラム】 (1/2ページ)

日刊大衆

 企画倒れだ。

 新刊の執筆で忙しいとか言ってしばらく連載を休んでいたが、大嘘である。

 もう止めたかった。嘘も吐きたくない。私は本能的に生きたい。なんか嫌なものは嫌。
意外と情に弱くて頼み事を断れないし、めんどくさくて安請け合いするし、つい期待に応えようとがんばってしまうところがあり、時折無理をしては、こういう残念なことになる。本能を蔑ろにするからだ。

 本能的に、人間は大切なものを守ろうとする生き物だろう。お金は箪笥の底に、日記は鍵をかけた引き出しに、芸能人は本当に行きつけのバーなんて絶対にテレビで紹介しないし、書店員は本当に大切な本に「5回泣ける」なんてアホなPOPは付けない。

 読んでおもしろかった本を紹介する企画だったが、そもそも私は「本好きとつながりたい」と思ったことはなく、勧めたい本があっても、相手は不特定多数ではない。この両手で抱えられる人数くらいにしか興味を持てないし、誰が何を読んでどう思ったかなど、どうでもいいのだった。

 だが、誰が何を日々食べているかには本能的に興味がある。

「昨日のホムパではトマトのファルシーが大好評!」とか「ついに七面鳥を丸ごと焼きました!」とか、そういうハレの飯ではなく、スマホで写真なんか撮らないが、毎日でも食べたいケの飯に。

 それを私は「本能めし」と呼ぶ。本能で「美味い」とわかっていて、ほとんど無意識にそれを繰り返し食べているのだが、レシピにも満たない「食いかた」のようなものなので、他人に知られることがない。大体そういう食事は恥ずかしいとされることが多く、手の込んだものでもないので、隠されがちである。

 隠す?そうだ、本当に大切なものは、隠すのが人間の本能。

 たまたま書いていてつながったが、やはりそれは「本能めし」と呼んで然るべきなのだ。たとえば高級寿司店の大将が、仕事のあとにちょちょいとつまむ名前もないような夜食にこそ、脳味噌がウニのように蕩ける美味さがあるのではないか、と思えてならない。一体何食べてるんだろうな……。

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