「知」と「情」が和解する 米澤穂信が語る「理想の小説」 (2/2ページ)

新刊JP

米澤:ミステリは「理」や「知」のものですが、小説は「情」のものでもあります。畢生のミステリができるとするなら、それは「知」と「情」が和解するようなものだろうなと思います。いつかそんな小説が書けたらいいですね。

――米澤さんが人生で影響を受けた本を三冊ほどご紹介いただければと思います。

米澤:さっきお話に出た『六の宮の姫君』がまず一冊目で、あとはマックス・ヴェーバーの『職業としての学問』と、ハーバート・ジョージ・ウェルズの『宇宙戦争』にします。

『宇宙戦争』は小学生の時に読んだ本です。イギリスのブリテン島からフランスに脱出しようとしていた避難民たちがドーバー海峡で足止めをくらって、その時に火星人に襲われるんですけど、そこにイギリス海軍の砲艦が来て応戦して、陸軍が手も足も出なかった火星人たちを相手に奮戦します。その過程でもうもうと水蒸気があがって、それが晴れたときには火星人も砲艦も居なくなっていた。これが幼心に悲しくて「沈んだという記述はないから浮いているだろう」と、砲艦のその後をよく妄想していたのを覚えています。今思うとそれがお話づくりの最初期だった気がします。

――『職業としての学問』についてはいかがですか?

米澤:この本は「専念」や「専門家であること」、それから「世界観というものを求めてはいけない」ということが書かれています。

私たちはつい「世の中とはこういうものだ」というように大雑把に物事を捉えがちですが、どんなことであってもひと言で表現できるようなものではなくて、個々人の様々な仕事や取り組みで成り立っている。大雑把な世界観で語られうるものではないんです。

たとえば学問であれば、「パウロの書簡について新しい解釈が発見された」とか「いやその解釈はおかしい」という小さな研究や追及の積み重ねこそが学問なわけで、「神学とはつまりこういう学問だ」とひとくくりにするのは学問ではないということですね。

――最後に米澤さんの小説の読者の方にメッセージをいただければと思います。

米澤:この本を書くにあたって力は尽くしたと思います。楽しんでいただけたらうれしいです。

(インタビュー・記事/山田洋介)

(第一回 ■『本と鍵の季節』執筆に生きた「実体験」 を読む)
(第二回 ■創作のスタートになるミステリ小説の「型」とは を読む)

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