古市憲寿 芥川賞落選は「立候補したわけではないので」 (2/3ページ)

新刊JP

「今月はいつ清掃が入ります」という連絡が毎月くるので、はじめのうちは気にしてカーテンを閉めたりしていたんですけど、そのうちにカーテンが開いたまま、目の前で清掃作業が行われていても気にならなくなった。そういう自分の心境の変化から物語を考えていきました。

――作業用のゴンドラが上下するにしたがって、清掃員は違う部屋の中を目にすることになります。様々な物語が考えうるモチーフだと思います。

古市:そうですね。いろんな部屋をのぞき見ながら何かの事件を解決していくという、『家政婦は見た!』のような推理小説でもいいと思いましたし、清掃中にガラス越しに経営者と親しくなって、部外者なのに会社の中で暗躍する話も考えましたね。

色々なパターンが考えられたのですが、人と人との交流を書きたいと思って、最終的に今回のような形におさまりました。

――高層マンションの掃除を通して様々な部屋の中をのぞき見る主人公の翔太の視線が冷めていて、現代的だと感じました。何を見ても驚かず、まるで一台のカメラのような。彼の人物像はどのように決めていったのでしょうか。

古市:どれくらい冷めた人物にするか、どのくらい世の中を悲観しているか、ということは難しかったのですが、今回については何年のいつからいつの出来事で、登場人物は何歳でという小説の構造を最初に作ったんです。翔太についてはそうやって小説世界を作ったら勝手に動き出した感じです。キャラクターを意識して作り込んだりはしていないですね。

――彼のキャラクターはどことなく古市さんが投影されているようにも思えました。

古市:それはあると思います。以前に書いた『絶望の国の幸福な若者たち』という本のあとがきで「全く違う世界の人には感情移入できないが、自分と自分の周りには関心がある。ただ、自分といってもこの世界にたまたま生きている自分だけではなくて、違う人生を歩んでいたかもしれない自分に対してもシンパシーを感じる」という趣旨のことを書いたんです。

たまたま大学に受かったり、たまたま修士論文が本になって今ここにいるのですが、それは偶然が重なっただけで、違った人生もありえたはずです。

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