【小説】永すぎた春/恋愛部長 (5/6ページ)

ハウコレ



泣いてる・・・・・・? まさか。

真由は、その丸まった背中を見て、さすがに胸がチクッと傷んだ。でも、ここで心が揺れたらいけない。とにかく自分は身ぎれいにならないと!奏多の声を聞かないまま、真由はその日は家を出て、友人の家に泊まった。

引っ越しをしてからあとは、あっけなかった。

真由が出て行ったあと、奏多もマンションを更新せずに、どこかへ引っ越し、2人をつなぐものは何もなくなった。

何かを察していたのだろう、奏多から連絡が来ることは二度となかったし、真由も、何を言われるか怖いような気持ちがあったので、あえて連絡をしないままでいた。奏多がその部屋を引き払ったことは、ずいぶん後になってから知ったのだ。

もうそのころには、奏多の携帯電話も不通になっていて、SNSのアカウントもかき消すようになくなり、連絡する手段は何もなくなっていた。

米澤とは、たった半年だけ付き合って、すぐに別れた。なんてことはない、米澤は、もともと半年後にアムステルダムの会社に転職する予定だったのだ。

真由と出会ったころから決まっていたことだったらしい。ほんの短い間だけ、夢のような時間をくれたあと、米澤は、2人の間には何もなかったかのように、サラッと去って行った。

「向こうに着いたら連絡する」と言っていたのは、口先だけの約束で、実際は、どれだけ待っても、彼からの連絡など来ることはなかった。

半年間というのは、恋が盛り上がって、最高潮を過ぎたあたりだ。この先もずっと一緒にいたいかどうか、急に現実がちらついてくる。

おそらくは、米澤も、真由も、お互いが、お互いの人生に必要な人間ではない、と気づいていたのだと思う。

一時だけの恋。ただ、お互いに、他人の顔でやさしくできる、ただ短い間の。
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