閻魔大王の本当の目的は全ての人々を極楽浄土を送り届けることだった (3/5ページ)
「お前は生前の罪業が重いため、地獄に遣わすはずであるが、今度だけは罪を赦し、すぐ元の国に帰してやる。それは、数年来、心を込めて法華の持者を尊敬し、共に祈っていた功徳によるものである」と。そこで俺は閻魔の庁を出て、人間界に戻ることになったが、その途中で、金・銀・瑠璃・玻璃(はり)・瑪瑙(めのう)・硨磲(しゃこ)・珊瑚の七宝(しっぽう)でできた塔を見つけた。しかもその塔に向かって、常日頃、俺が慕っていた僧が、口から火を吹きかけているのだ。そこへ空から声が聞こえてきた。「僧が法華経を唱える功徳によって、この宝塔が虚空に出現したのだが、僧は時に、激しく怒り恨む瞋恚(しんい)の心で、弟子や童子を叱りつけることがある。その怒りの火が宝塔を焼いているのだ。しかし、もしも怒りの心を止めて、法華経を読誦し続けるなら、このようにとても麗しい宝塔が世界に充満するだろう。このことをすみやかに僧に告げよ」と言った。その言葉が終わったと同時に、俺は生き返った…。
それから男は、僧の元に出向き、冥界での仔細を語った。すると僧は自らの振る舞いに恥じ入り、かつ、後悔して弟子や童子を帰し、たったひとりで一心不乱に法華経を読んだ。男もまた、前にもまして、僧を崇めた。それから数年後、僧は法華経を読みながら死んでいったという。
■地獄を恐れ悪行を止めるために重罪を科した閻魔大王
日本思想史の研究者・佐藤弘大によると、中世期の日本には、「彼岸の本仏、此土の垂迹」というコスモロジーがあったという。それは、他界の本仏は、娑婆世界の衆生を救うために垂迹という形を取って、この世に出現した。その中には閻魔大王も含まれていた。
閻魔大王の究極の目的は、衆生を浄土へと送り届けることだった。それゆえ、閻魔大王が過酷な刑罰を科するのも、人々が地獄に堕ちるのを恐れて、悪行を止めるように仕向けるためだった。つまり、冥界に堕ちた罪人に悔い改めを促し、それに同意したなら、人間界に送り返すことも、当然の振る舞いだった。