直木賞作家が書く 幕末の日本経済を支えた女商人とは (1/3ページ)
出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。
第108回の今回は『グッドバイ』 (朝日新聞出版刊)を刊行した朝井まかてさんが登場してくれました。
『グッドバイ』の舞台は、相次ぐ外国船の来航に揺れていた幕末の日本。長崎の油商「大浦屋」の娘・大浦慶(おおうら・けい)は先細る油商いに代わる新しい収益源として「茶葉」に目をつけます。売り込み先は外国。言葉もわからないし茶葉のことなんて何も知らない。無謀とも思える挑戦は、慶の人生を思わぬ方向に転がしていきます。
一人の商人の人生の因果と激動の時代が描かれたこの作品について、朝井さんはどんなことを語ってくれたのでしょうか。
(聞き手・構成:山田洋介、写真:金井元貴)
■幕末の女商人・大浦慶 その実像は――『グッドバイ』は幕末の茶葉商人・大浦慶の一生を通して外国勢力に翻弄されながら近代化の道を歩み始める日本が描かれています。坂本龍馬や西郷隆盛など「ヒーロー」に事欠かないこの時代を書くうえで、朝井さんが選んだ大浦慶という人物はややマニアックな印象を受けました。
朝井:幕末といえば新選組など、有名で人気のある題材があって私も好きなのですが、この時代は日本の中の出来事だけでは見えないことがあるんじゃないかと思っていました。つまり、世界の歴史から日本を見ると、何が浮かび上がるのか。
すると、舞台はやはり長崎になるんです。幕末の動乱期、日本じゅうから志士が集まり、そして諸外国からも様々な思惑を持って商人が訪れます。まさに坩堝(るつぼ)です。そこで、彼らと交流のあった大浦慶を主人公に据えました。
――「こんなにすごい人がいたのか」と驚きました。女手ひとつで幕末の混乱期に茶葉交易を興して成功させたエネルギーには恐れ入ります。
朝井:彼女は当時、外国の商人から最も信頼されていた日本商人でした。ビジネスを成功させただけではなく、後に大きな詐欺事件に巻き込まれたという人生の波乱も私には興味深かったです。