『サウダージ』が“私の”曲になるまで (4/4ページ)
けれどその瞬間、ばかみたいだけれど、「ああ、私は私とはぐれる訳にはいかないんだ」と心から思ったのだ。山手線に乗り込んで、泣きながら『サウダージ』を何度も聴いた。
昔、ポルノのギタリストが雑誌に連載していたエッセイの中で、ファンの人に「サウダージを作ってくれてありがとう」と言われたのが忘れられない、と書いていたことがある。事務所のマネージャーに囲まれているメンバーたちに向かって、その人は少し遠くからそう言ったのだそうだ。
「曲がいつの間にか作った自分たちの手元を離れて、その人のものになることがある。そのときのために曲を作っている」と彼は綴っていた。ファンが言った「サウダージを作ってくれてありがとう」はきっと、「“私の”サウダージを作ってくれてありがとう」だったのだろう、と。
初めて読んだ10代のときは、その言葉の意味が分からなかった。けれどたしかにその瞬間、山手線の中で聴いた「サウダージ」は大好きなバンドの大好きな曲の一つではなく、“私の”曲だった。
(文:生湯葉シホ、イラスト:オザキエミ)