『サウダージ』が“私の”曲になるまで (1/4ページ)

マイナビウーマン

『サウダージ』が“私の”曲になるまで
『サウダージ』が“私の”曲になるまで

中学のころから大好きなバンドがいるのだけど、彼らのライブに恋人を連れて行ったことがない。というのも、私はそのバンドのことを親と同じくらい大切に思っているので、万一、ライブを観た恋人が「いまいちだったね」みたいなリアクションをしようものなら、その場でブチ切れてしまいかねないからだ。

■大切だからこそ、触れられないところにしまっておきたい

理不尽なのはもちろん分かっているのだけど、私にとってそのバンドの存在はそのくらい大きくて絶対的なものだった。「10代で好きになったものはその人に一生ついてまわる」とはよくいうことだけれど、ワンマンライブも、お小遣いでCDをぜんぶ集めたのも、恥ずかしいけれど芸能人に本気で恋をしたのも、彼らが初めてだった。

だから、彼らのことをそれくらい特別だと感じるのは、自然なことだったんじゃないかと思う。

そして、ボーカルがライブのMCで「大切な人のことを思って聴いてください」と言うとき、私はいつも困ってしまった。だって「大切な人」と言われても、私にとってそれは、その曲をこれから演奏する“彼ら自身”に他ならないのだ。

彼らの歌うラブソングは、愛とか恋とか、自分自身に関する些末な出来事から一番遠い場所にあった。歌詞に共感することは、彼らが作った曲の世界を踏み荒らすみたいで嫌だった。目覚ましのアラームに設定している音楽をだんだん嫌いになっていくみたいに、自分の生活に彼らの曲を引き寄せることで、特別な曲たちを傷つけてしまいたくなかった。

■“介助者”その言葉が隔てたもの

23歳、大学を出てライターのアルバイトを始めたばかりのころ、好きな人ができた。彼は同じ会社に勤めているカメラマンだった。

昼休み、彼はよく自分のカメラを持って会社の近所を散策していたから、私もたまにそれについていった。都内のビジネス街の真ん中に突如バグとして現れたみたいな、潰れかけのショッピングモールが私たちのお気に入り。目的もなくそのモールの中の100円ショップやらボタン屋やらを冷やかして、会社に戻るのが定番のルートだった。

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