くるり『ハローグッバイ』でよみがえる“左斜め上の恋” (1/3ページ)
「僕のロッカー、君のロッカー 斜め向かいだった」
大学1年の夏、サークルの友人にCDを借りて初めて聴いたくるりの『ハローグッバイ』。慣れない東京での新生活に忙殺され、思い出す余裕もなかったことに気が付いた。左斜め上のロッカーだった彼のことを。
■人生でただ一度きり「恋に落ちた」瞬間
高校に入学し、同じクラスになったのが出会いだった。
女子に「イケメン」と騒がれるタイプではなかったものの、さっぱりとした端正な顔立ちに、すらりとした長身。野球部所属で、普段つるんでいるのも部活の仲間。勉強にも熱心で、将来の夢は中学校の先生。趣味は釣りとパズドラ、好きな音楽はコブクロ。
一見どこにでもいる普通の少年ながら、どこかひょうひょうとした佇まいが独特だった。
「この人は何か特別なものを持っていそう」と気になりつつも、話しかけることも話しかけられることもないまま、6月になったある日の美術の授業。
美術室は自由席だったため、女子の仲良しグループに入れなかった私は、4人掛けの机に1人で座って黙々とデッサンを始めた。すると同じ机の向かいに彼が座ってきた。そして目が合い、彼はくしゃっと笑った。好きだ、と思った。
今この瞬間に私は恋に落ちたのだと自覚したのは、後にも先にもこの時だけだ。ちょっと優しくされただけで好きになってしまう陰キャ的な、そんな陳腐な理屈ではなかった。自分でもなぜなのか分からなかった。まるで催眠術にでもかけられたかのような、意思も理由もない恋だった。
クラスの教室に戻ると、彼のロッカーが私のロッカーの左斜め上だということに気が付いた。
私たちの教室には、教科書や体育のジャージなどを入れておくための正方形のロッカーが壁際に備え付けられていて、出席番号順に一人一つずつ割り当てられていた。
ここで言う「左斜め上」とは、横に3列あるうちの1番下の列だった私のロッカーから、上に二マス、左に一マス進んだ位置を指している。
そんなロッカーの位置だけで、彼に少し近付けたような気がした。