元祖かかあ天下!飛鳥時代、絶体絶命の窮地を切り抜けた豪族の妻【上】 (2/4ページ)
しかし形名の率いる朝廷軍は帝の威信を示す目的上、寡兵であったとは考えにくいでしょう。
恐らく大軍を率いていたものの、蝦夷軍はそれ以上の大軍だったのか、あるいは少数精鋭で鮮やかな戦術を繰り出しての逆転勝利だった(それを恥じた朝廷軍は詳細な記録を残さなかった?)のかも知れません。
ともあれ敗れた形名たちは這々(ほうほう)の体で逃げ帰って籠城しますが、追撃してきた蝦夷軍によって完全包囲されてしまいます。
「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」
味方の兵士たちは次々と逃げ出してしまい、城内にはもうほとんど残っていません。最早これまで……夜陰に乗じて自分も逃げ出そうとした形名の腕を、背後から何者かが掴みました。
勝負はこれから……酔っぱらった妻に叱咤される「何奴……っ!?」
形名の腕を掴んだのは、彼の妻でした。どういう訳か、酒甕を抱えてベロベロに酔っ払っています。
「なにやつぅ?……あんた、長年連れ添った伴侶を忘れたってぇのかい?……ヒック」
安堵した形名は、怒りと狼狽で妻を詰(なじ)りました。
「お前、この非常事態に何を悠長な……!」
対する妻はいっかな動じず、悠然と酒甕を呷(あお)ります。