元祖かかあ天下!飛鳥時代、絶体絶命の窮地を切り抜けた豪族の妻【上】 (3/4ページ)
「だからじゃないのよ……これから夜陰に乗じて敵に斬り込むんでしょ?身体をあっためておかないとでしょ?……ウィ~」
「ふぅ……呑んだ呑んだ」完全武装で、やる気満々の妻(イメージ)。
どう見ても頭の中まであったまり過ぎているような気がしますが、とにかく逃げ出そうとする形名の襟首をむんずと掴んで放してくれません。
「それよりあんたねぇ……いったいどこへ逃げようってのよ?」
据わった酔眼をギロリと向けて、妻は形名を問いただしました。
「よしんばここで蝦夷の囲みから逃げ出せたところで、そっから先はどうするの?ネズミのようにコソコソと、ずっと何かを恐れて逃げ回る人生が待っているだけじゃない」
違う?と熟柿の吐息を吹きかけて、妻は熱弁を続けます。
「あのね……あなたの、そして私たち上毛野一族の祖先は、かつて青く広がる大海原を渡り、万里の山野を踏破して、武威を轟かせたと言うのに……今ここであなたが逃げれば、彼らの名誉が水泡に帰するのよ?」
「そりゃそうだが、俺は……」
「あなたが彼らと違うのは当然だけど、あなたにも彼らと同じ、英雄の血が流れているの……いい?戦さってェのは数だけじゃないわ。