人権?何それおいしいの?平安時代の刑務所が悪い意味でアバウトすぎる!

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人権?何それおいしいの?平安時代の刑務所が悪い意味でアバウトすぎる!

悪いことをすると刑務所に入れられてしまうのは誰でも知っていますが、逮捕されたらいきなり収監される訳ではなく、被疑者を取り調べるために身柄を留めておく留置場や、裁判が始まったら判決が出るまで収容する拘置所などがあります。

流れとしては逮捕⇒留置場(取り調べ)⇒拘置所(裁判)⇒刑務所(服役)となりますが、中世の日本だと、検非違使(けびいし)に捕らわれた被疑者はそのまま獄舎(ごくしゃ。ひとや)へ投じられ、取り調べから判決(判決次第では服役)まで過ごしたそうです。

洛中を警備する検非違使たち。罪人の取り締まりだけでなく、裁判や囚人の管理など手広く管轄していた。

司法システムが未発達だったのか、それとも人権なんて存在しない時代ゆえ被疑者の取り扱いが雑だったのか、多分その両方なのでしょうが、中世日本の獄舎は悪い意味でアバウトでした。

今回は、平安時代の獄舎がどんな感じでアバウトだったのか、そこの辺りを紹介したいと思います。

権力濫用もいいところ…借金が返せなくてぶち込まれた者たち

現代人の感覚だと、刑務所と言えば「悪人を懲らしめる」ために収容する施設ですが、中世の貴族たちは「気に入らない≒不都合な者を私的に制裁する」ために獄舎を利用することがありました。

例えば、こんな文書が残っています。

【現代語訳】

検非違使別当殿がご命令になるに、「僧康寿(そう こうじゅ)・三宅本高(みやけの もとたか)・物部秀信(もののべの ひでのぶ)は、負債があるために獄舎に拘禁した者たちである。しかし、三人それぞれに、かなり体調を悪くしているようなので、彼らには、獄舎を出ることを赦して、医師(くすし)の治療を受けさせよ」とのことである。

長保元年(999年)4月5日
左衛門権少尉安倍信行がご命令を承る

※「三条家本北山抄裏文書」より。

「アイツら、大丈夫かな…」獄舎の門前で、仲間の釈放を待つ人々。

要するに「借金が返せなくてぶち込まれた三人について、あまりに体調が悪いようなので、保釈して治療させよ」ということですが、借金が返せなくて逮捕とは、かなりシビアな世界ですね。

とは言っても、すべての債務者が逮捕・収監されていた訳ではなく(検非違使もそこまでヒマではありません)、期限を過ぎてもなかなか返さない者、それこそ踏み倒そうとするような悪質な者に限られたようです。

また、悪質な債務者についても検非違使を私的に動員=債務者を逮捕できるのは有力な貴族に限られ、彼らの逆鱗に触れなければ見逃されたこともあるでしょうし、その逆(軽微な債務を理由に逮捕された事例)もまた然りでしょう。

水さえ飲ませてもらえなかった?劣悪すぎる獄舎の環境

さて、先ほどの3名がどのような借金で逮捕されてしまったのかは分かりませんが、獄舎の環境は彼らが体調を崩してしまうほど劣悪だったようで、検非違使別当を務めていた藤原実資(ふじわらの さねすけ)がその改善を命じるほどでした。

彼の日記『小右記(しょうゆうき)』によれば、部下に命じて長徳2年(996年)6月7日に獄舎を視察させた結果、特に体調を崩していた獄囚12名のうち、ただちに6名を釈放させたと言います。

残った6名についても翌日、一条(いちじょう。第66代)天皇の勅許を得た上、食べ物を与えて釈放したと言いますから、よほど衰弱していたのかも知れません。

「いくら罪人(?)とは言っても、水くらい飲ませてやれ!」

放置された涸れ井戸。福利厚生なんて概念は、たぶん存在しなかった(イメージ)。

実は獄舎の井戸が涸れてそのまま放置(※)されており、獄囚たちは水さえ飲めなかったと言いますから、拘留が長引けば死んでしまう者も少なくなかったことでしょう。

(※)きっと予算が下りず、また自腹orボランティアで獄囚の待遇改善を図る奇特な者はいなかったようです。

「渇きて死ぬる囚衆は実(まこと)に哀(あわ)れに憐(あわ)れなるべし」

※藤原実資『小右記』長徳2年(996年)6月13日付の日記より。

……という訳で、自腹で井戸を掘ってやったそうですが、文字通り生殺与奪を握っていたようで、本当に罪を犯したならまだしも、軽微な借金や逆恨みなどでぶち込まれてしまった人々とすれば、たまったものではありませんね。

終わりに

以上、平安時代の司法について、そのごく一部を見てきました。

一、罪を犯していなくても逮捕される可能性がある
一、収容施設は身の安全を保障してくれない可能性がある

まるでどこぞの独裁国家みたいですが、つくづく現代日本の法治主義はありがたいものだと実感できますね。

これも悪事の横行する現実に向き合いながら、公正な社会の実現に尽力してきた先人たちの賜物と思うと、感謝の念もひとしおというものです。

※参考文献:
繫田信一『平安朝の事件簿 王朝びとの殺人・強盗・汚職』文春新書、2020年10月

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