医療や看護、看取り、葬送を目的に兵士に寄り添った宗教者・陣僧たち (1/3ページ)
人類の歴史から戦争がなくなったことはない。今もこの瞬間もどこかの土地で血が流れ命が散っている。 逃れられない戦いと死に向かい合う戦場の兵士たちに寄り添う「従軍チャプレン」という宗教者が海外の軍隊にいる。そして日本にもかつて僧侶が武士に寄り添っていた時代があった。
■従軍チャプレンとは
チャプレンとは病院やホスピスなどに勤務して終末期患者の看取りなどの宗教的ケアに従事する牧師・神父のことである。世界の軍隊には「従軍チャプレン」の制度を採用している国が多くがあり、元々チャプレンとは従軍牧師(神父・司祭)のことを指していた。その起源は遠く旧約聖書に見られるという。
従軍チャプレンの職務は、死にゆく兵士に臨終の祈りを捧げ、戦死者の葬儀を行う。また、兵士たちの様々な悩み、相談を受けるカウンセラーであり、倫理や道徳を教える教師でもある。その一方でチャプレンは宗教教育の時間に自軍の正統性を説いたり、自ら先頭に立って兵士を鼓舞したりもした。キリスト教の戦闘的な一面が垣間見える。しかしこの後述べるように、日本の中世武士が殺生の罪に怯えていたことを考えると、神の名における殺生の免罪は、否応なしに戦争に参加している兵士などには救いになったかもしれない。なお、本稿では触れないが、従軍チャプレンにはキリスト教の牧師・神父だけではなくユダヤ教のラビ、イスラム教のイマーム、そして仏教の僧侶もいる。
■中世の従軍僧・陣僧
日本には従軍チャプレンの制度はないが、鎌倉時代から南北朝時代を経て室町に至る中世の時代、武士が戦場に赴く際に従った従軍僧が活躍した。これを「陣僧」という。彼らの活動は、戦傷者への医療・救護、瀕死の武士の最期の看取り、戦死者の供養・葬送など、従軍チャプレンとほぼ同様とみてよい。
チャプレンの歴史に比べると、中世に入ってやっと陣僧が本格的に登場したのは、日本において仏教がいかに「個」から遠かったかがわかる。日本では仏教は鎮護国家のための学問にして呪術であり、個人のものではなかった。それでも特権階級たる平安貴族らは阿弥陀像に五色の紐でつなぎ、臨終後の極楽往生を望んだ。