様々な情報を持つ遺体 考古学的に貴重な資料となった数々の遺体 (2/2ページ)
■小鳥の頭を口に詰められた300年前の少女
こちらは南ポーランド、トゥネル・ヴィエルキ洞窟。ここから発見された少女の遺体は実に奇妙なものだった。彼女の口の中に、小鳥の頭部だけが詰め込まれていたのである。彼女はおよそ300年前に亡くなったとされる。小鳥の頭が詰められていたのもさることながら、中世ヨーロッパでは洞窟埋葬は存在していなかった。少女の遺体、状況ともにきわめて例外であることが分かる。彼女の死因ははっきりしていないが、代謝性疾患を持っていたことが分かっている。もしかしたらそれが関係しているのかもしれない。おそらくは戦争中家族とともにやってきて、発見現場となった森の中で亡くなったのでは、とされているが、謎は多い。小鳥を子供の魂の象徴とする文化は多いが、それだけでは説明がつかない。少女に何があったのか、調査は今も続いている。
■硬貨をくわえた子供たち
六文銭といえば、「三途の川の渡し賃」を連想する人は少なくないだろう。真田家の家紋がそれを意匠化したものだという話は、数年前の大河ドラマ放映の際、少し話題にもなった。実は、ポーランドでは100体近くの遺体の口に、硬貨がくわえさせられた状態で発見されている。彼らはみな子供だった。これは古代ギリシャから続く風習、「カロンの渡し賃」を模したものであることが分かってきている。カロンとは、ギリシャ神話に登場する人物のこと。人は死後、冥界の河を渡る。カロンはその渡し守の役割を持ち、死者は渡し賃として1オボロスを支払う。これを支払えなければ、渡河を後回しにされ、200年ほどあたりをさまようことになる。遺体の状態や、発見された場所などから見て、子供たちのための墓所だった可能性が指摘されている。彼らがいたコミュニティでは、子供がとても大切にされていたとも推測されている。ただし、棺やそれに使われる釘などは見つかっておらず、非常に貧しかったとみられる。しかし、子供たちが死後さまよわぬようにという埋葬者たちの想いには、深く胸を打たれる。
■遺体から新たな情報が得られたとき、遺体は再び蘇る
人が生きてきた中には、その人のすべてが詰まっている。つまり、人が生きた、それこそが歴史だといえよう。そして遠い未来、私たちの遺体を調べる誰かがいたなら、そこから情報を得たその手の中で、文化つまり私たちはふたたび蘇るのだ。