異界をつなぐ「出合」「坂」「橋」…その日本語に込められた意味にあなたは気がつけますか?

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異界をつなぐ「出合」「坂」「橋」…その日本語に込められた意味にあなたは気がつけますか?

土地にまつわる言葉の意味を考えたことはありますか?

筆者は好んで登山を行うようになって、不思議な名前の谷や、廃道の前に存在する朽ちた社や橋をよく目にします。その先にいったい何があるのか…気になることがありますが、不思議な結界があるような気がして、足早に通り過ぎてしまいます。
しかしそういった場所には、自然と人間との関わりを示す名前がつけられているものなのです。

アイ

「アイ」は間であり、二つの世界や流れが交わるところです。

「谷」や「峠」のことを指すこともあり、「落合、二俣、二股、土合」と呼ばれることもあります。

山で「出合」と呼ばれる場所は、川と川が合流する地点。そして谷には川が流れ、二つの山がその裾を分け合うところです。
「峠」は道と道が低いところでつながるため、やはり二つの世界の交わる場所といえます。その場所は気が交わる場所とも言えます。
峠には古来「峠の茶屋」など多く存在し、旅人が交わり栄えた場所でもありますが、人間と獣が遭遇しやすい危険な場所でもあります。現に筆者も「大菩薩峠」で猪やアナグマと遭遇しました。

ハシ

「ハシ」は別々の場所をつなぐもの。

「端」にある断絶された場所や隔絶された二つの世界を「橋」でつなぎます。しかしその橋は許されたものしか渡れないこともあります。注連縄や門があれば、結界が張られているので禁忌を侵さぬよう気を付けなければなりません。

日光東照宮前の「神橋」(photoACより)

「箸」は食べ物と人間、死んだモノと生きるモノをつなぐ物です。お食い初めは子供が食べることに困らないよう、箸で鯛などを口につける儀式です。その行為は親から子への「まじない」といもいえるでしょう。

サカ

「サカ」は境、堺であり空間を区切る場所のこと。転じて「坂」となり、坂は天界と下界、または地上と地下が仕切られる場所ともなります。

古事記に登場する神話で、国を作ったイザナギ・イザナミ夫婦。亡くなった妻イザナミがいる黄泉比良坂(よもつひらさか)は黄泉の国。迎えに行った夫のイザナギが、振り返ってはならないと言われたにも関わらず振り返ってしまい、怒ったイザナミに襲われるという話は有名です。

上記の神話のように、サカはアイとは違い、世界と世界をわける境界線を超えてはならないという禁忌の意味が含まれています。以前こちらで記事にした妖怪「送り狼」も、背後の違和感や恐怖で人間が振り返ってしまうと、食い殺されてしまいます。

一度入ってしまった異界からは速やかに出ていかなければならない、という意味も込められているのかもしれません。

黄泉比良坂(photoACより)

聖なる場所は概ね高い場所に造られます。山岳信仰の色濃く残る霊山には、「坂」である登山道に鳥居や注連縄があり、結界を示しています。そこから先は神の国、そして必ず山頂に祠や社があります。そのため、後世日本に伝来した仏教寺院も、もともと山中にある神社の近くに作られることが多々あります。

比叡山には日枝神社が既に存在しており、日枝の音から「比叡」となりました。高尾山も高尾山神社のすぐ下に「薬王院」が造営され、御本尊は「飯縄大権現」です。権現は、神が仏の姿を借りたとされています。仏は後で、先に神がいたのです。

比叡山(photoACより)

また「アイ、サカ、ハシ」の近くには巨木や巨岩が存在することもあります。注連縄がかけられ、鳥居が設けられて神聖なものとされていることも多々あります。

注連縄によって神聖な場所だと人に知らしめ(禁断の結界)、その逆に、雷が落ちて木や岩が割れると神の怒りと捉えられ、たくさんの人間から祈りが向けられるように鳥居を設けられた場合もあります(祟りを鎮める)。

日本の精神世界において、自然信仰(アニミズム)は表裏一体、陰と陽なのです。

参考文献:日本異界図典(朝里樹、ジー・ピー)「里山奇談 よみがえる土地の記憶」(coco/日高トモキチ/玉川 数、角川文庫)

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