「鎌倉殿の13人」八重ロス続出でも落ち込んでる暇なし!続々と歪んでいく勝者たち…第21回「仏の眼差し」振り返り

Japaaan

「鎌倉殿の13人」八重ロス続出でも落ち込んでる暇なし!続々と歪んでいく勝者たち…第21回「仏の眼差し」振り返り

奥州合戦、まさかのナレーション完結……合戦シーンは感染症対策で演じられないのでしょうか。

あるいは先を急ぐ事情もあるのでしょうが、合戦は単なる甲冑チャンバラではなく、命をやり取りする中で光る武士の精神を伝える舞台でもあります。

先週の弁慶立ち往生のように、多くの人々が「見なくても展開や結末を知っている」エピソードなら、あえて見せない演出にも斬新さが感じられるでしょう。

歌川国芳「鎌倉勢奥州進発之図」

しかし、奥州合戦などあまり有名とは思えないエピソードについては「こんな事もあったんだよ、見上げた武士がいたんだよ」など、みんなが興味を持つキッカケとして欲しいところです。

……さて、気を取り直してNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、第21回放送は「仏の眼差し」今回も目まぐるしい展開でしたね。

今ごろ、多くの視聴者たちが八重(演:新垣結衣)ロスに陥っていることでしょう。しかしここで落ち込んでいる場合ではありません。物語はまだまだ続くのですから……。

という訳で、今週も振り返って行きましょう!

奥州合戦・河田次郎の処刑について

河田次郎「頼朝!この外道め、離せ!」

……せっかく藤原泰衡(演:山本浩司)の首級を持って来たのに、主君を裏切ったという理由で源頼朝(演:大泉洋)に斬られてしまった河田次郎(演:小林博)。初登場にしてあっけなく退場です。

ここだけ見ると「頼朝ひどい最低!」と思ってしまうかも知れません。しかし、窮地に際して主君を裏切るような人物は、状況が変わればまた裏切るに決まっています。

仮に頼朝が調略を仕掛けて「泰衡を討てば取り立ててやる」と密約を交わしていたとでもいうなら別ですが、『吾妻鏡』にそんな記述はないし、劇中でも知らない様子でした。

頼朝のトラウマ?家人の裏切りによって討たれた源義朝。月岡芳年筆

ちなみに頼朝は父の源義朝(よしとも)が家人の裏切りによって命を落としており、その過去が裏切り者を許さない姿勢につながっているのだ……といった言及があってもよさそうなもの。

とにかく本作の頼朝はヘイトを集めるだけ集め、「天が与えた罰なら甘んじて受ける」と来るべき非業の死に向けて着々とフラグを立てていくのでした。

サブタイトルの「仏の眼差し」は、間違いなく頼朝にも向けられています。

殺すことはなかった?義経を懐かしむ御家人たちについて

さて、奥州で勝利を収めた御家人たちは酒宴の席で亡き源義経(演:菅田将暉)の思い出話に花を咲かせました。

「本当に殺さねばならなかったのか」「殺すことはなかったんじゃないか」

誰が言い出したか、次第に「九郎殿は強かった」「なのに平三のせいで死に追い込まれた」などと梶原景時(演:中村獅童)にヘイトが集まっていく展開。

しかしちょっと待って欲しい。義経が好きなら好きで構いません。しかし義経が何をしたか、彼らは忘れてしまったのでしょうか。

『吾妻鏡』の記述と筆者の記憶が確かならば、義経は源行家(演:杉本哲太)と共に「頼朝追討の宣旨」を求めていたはず。

首桶を抱える義経。もしかしたら、この中に頼朝の首級が収まっていたかも知れない。歌川広貞筆

追討とはすなわち「どこまでも追い詰め、討ち滅ぼす」こと。その勅命を後白河法皇(演:西田敏行)に求めたということは、間違いなく「頼朝を殺す」意志を明確にしたのです。

謀叛ってのは「ちょっと懲らしめてやれ!お灸を据えてやれ!」というレベルではありません。いつぞや政子が言った「うんと叱られるがいいわ!」程度の認識では困ります。

ひとたび叛旗をひるがえせば、待っているのは命のやりとり。明らかに一線を越えてしまったからこそ、頼朝は泣く泣く義経を討った(泰衡に討たせた)のです。

楽勝だったから「殺さなくても……」なんて余裕なことを言っていられますが、それで頼朝が討たれても同じことが言えたのでしょうか。

どうもこの世界の武士たちは、謀叛というものを軽く考えすぎている節が見受けられます。ちょっと喧嘩して仲直り……ではないのです。

特に千葉介常胤(演:岡本信人)殿。前に貴殿らが企んだ「謀叛」の結果、その罪を一身に負わされた上総介広常(演:佐藤浩市)が、どんな目にあったか。よもやお忘れではございますまいな?

土をいじることがなぜ「罰当たり」なのか?実平の発言について

「なんて罰当たりな……」

そう言っていたのは土肥実平(演:阿南健治)。鎌倉じゅうの道路を整備することに対してのことですが、ここはもう少し説明が欲しいところ。

土地には神様がいらして、それを軽々にほじくり返す(整備することも含む)ことは禁忌とされていました。そういう宗教観がないと「何でそれが罰当たりなの?」と視聴者が置き去りにされてしまいます。

現代だって、家屋を建てる時など地鎮祭(じちんさい)を行いますよね?あれは土地の神様に対して「これからお騒がせいたしますが、お許し下さい」などと挨拶をしているのです。

土地の神様へご挨拶。日本は神の国。神と共に生きる国(イメージ)

また「篤く信仰いたしますので、末永くお守り下さい」という祈りでもあります。他にも井戸を掘る時や埋め戻す時などもきちんと神事を執り行わずに祟りを受けた……なんて話しは枚挙にいとまがありません。

そこへ現れた八田知家(演:市原隼人)。初登場からワイルドな風貌で魅せてくれましたね。

「俺は頼朝の命令でやっているだけだ。罰が当たるならそっちだろう」

ここでもただ頼朝が罰当たりであることを強調してヘイトを集めています。しかしこれまで散々日取りが吉凶がと騒いできた頼朝が、神仏を粗末にするような暴挙に及ぶとは考えにくいことです。

現代人なら「神事とかいちいちめんどくさいから、一気に工事しちまえよ!」と言う方もいるでしょうが、これまで本作で強調してきた当時の世界観をぶち壊してしまうのは、いささか興醒めではないでしょうか。

追い詰められる後白河法皇

さて、奥州藤原氏が滅んだ今、天下に頼朝の敵はいなくなりました。が、大天狗こと後白河法皇との関係を定めなければなりません。

奥州征伐の恩賞を拒否した頼朝。今回の出兵はあくまで自分の判断であり、朝廷の指図は受けないという意思表示に緊張が走ります。

「一度お会いしたい」

まさか、前に発した頼朝追討の宣旨を怒っているのではないか……と戦々恐々の法皇たち。

「こんな時に、平家がおれば……義仲、九郎、なぜ滅んだ!」

「すべて法皇さまがお望みになられたこと」

やり切れない法皇は、控えている平知康(演:矢柴俊博)に八つ当たり。丹後局(演:鈴木京香)も加勢します。

「なぜわしを止めてくれなんだ」

「出て行け!」

「実に気の毒 鼓判官 打たれ叩かれ 鎌倉へ」……朝廷を去る知康(イメージ)

止めたって聞きゃあしないくせに……まったくいい迷惑ですが、『吾妻鏡』を見ると、この時点で知康は鎌倉で頼朝の側近となっていました。

(義経と親しかったため、その都落ちと共に追放。鎌倉へ弁解に行ったらそのまま引き留められます)

何とか鎌倉方の有力御家人を篭絡できないものか……そこで京都守護を務めている北条時政(演:坂東彌十郎)を双六に誘っても、接待や忖度が出来ない古だぬき。いや、あれは素だったのかも知れません。

「いくら法皇様だって、ダメなモンはダメ」

ずっといて欲しいと甘えてみても「美人の妻が待っているから勘弁して下さい」とダメ親父のようでいて、誘いに乗らない老獪さを魅せました。

焦っているのは私だけ?北条家の行く末を憂う“りく”

……しかし、そんな時政も家に帰ると美人妻りく(演:宮沢りえ)には敵いません。

待望の嫡男・北条政範(まさのり。幼名は不明)が生まれた喜びもそこそこに「皆さん緊張感が足りません!」と叱咤激励。

北条ファミリーもすっかり増えました。北条時連(演:瀬戸康史)が初登場したほか、義時の妹ちえ(演:福田愛依)は畠山重忠(演:中川大志)、もう一人の妹あき(演:尾崎真花)は稲毛重成(演:村上誠基)に嫁いでいます。

初めて参加した家族会議でいきなり叱り飛ばされる……婿たちはさぞ面食らったことでしょう。

北条のライバル・比企能員。『大日本歴史錦絵』より

ライバルの比企能員(演:佐藤二朗)は頼朝の嫡男・万寿(演:鳥越壮真)の乳母を務めるほか、一族の娘たちを源氏に送り込んで着々と基盤を固めているのに……。

「言っちゃいましょうか。言っちゃいましょう」

あくまでも北条家のためを第一に考え、家族たちの尻を叩く“りく”。それが他家勢力からは「悪女」に見えてしまう。

これまで牧の方(りく)と言えば、ただ己が欲望のために時政を操り続けた女狐として描かれることが多く、本作での描き方には新鮮味が感じられますね。

オカルトにはまる大姫。葵と名乗った理由は?

許婚・源義高(演:市川染五郎)を喪った心の傷が癒えないため、近ごろはオカルト方面に現実逃避をはじめた大姫(演:南沙良)。

いきなり葵(あおい)と名乗り出したり、妙な呪文やまじないに凝り出したりと周囲を驚かせていました。

十代の子供に(特に心的外傷を負っていればなお)ありがちながら、ちょっと薄気味悪い印象を残しています。

劇中では『源氏物語』のヒロイン・葵の上(あおいのうえ)からとったものと考えられ、彼女は生霊に憑り殺された光源氏(ひかるげんじ)の正室。

葵を憑り殺す生霊(六条御息所)。上村松園「焔」

生霊に憑り殺されるヒロインは他にも夕顔がいるものの、葵の上を選んだのは「最初の妻を喪う」義時を暗示したのかも知れません。

また少しメタですが葵は徳川の家紋であり、来年大河ドラマの「どうする家康」を暗示、『源氏物語』に言及したのは再来年大河ドラマの「光る君へ」を暗示した可能性も考えられます。

ちなみに、焼いた鰯の頭が魔除けになると言うのは節分によくやる「焼嗅(やいかがし)」でしょう。女性陣は一様に眉を顰めますが、都育ちのりくはもちろんとして、身重そうな女性は大きく袖を上げるなどしていました。

そう言えば、八重も手伝う時にはっきり顔をしかめていました。もしかして第二子を妊娠していたのかも知れません(悪阻があると食べ物系の匂いに敏感になるとか)。

政子が「あなた、最近変わった?幸せそう」などと言っていたのは、義時や子供たちとの幸せな生活はもちろん、妊娠していたから……だとすれば、死の悲劇がよりいっそう引き立つことでしょう。

まだ覚悟が足りない義時と、まだヘイトを集め足りない?頼朝

さて、幸せに暮らす八重と義時ですが、頼朝はこれでもかとばかりヘイトを集めるべく意地悪(元彼マウント)に余念がありません。

「昔、待ち合わせをした桜の木が切り倒されていた」

(そりゃ、アンタとの交際が黒歴史だからだよ!)

「伊東屋敷の裏にある地蔵が二体に増えておった」

(それは殺された千鶴丸を供養するためのだよ!)

「今度、伊豆山権現に……」

(そこには千鶴丸の墓がありますよね?)

八重の「もうほんといい加減にしてくれ」と言わんばかりの苦笑いが、胃に悪いですね。いい加減にしなさい、とばかり政子(演:小池栄子)がピシャリと制します。

「いい加減にしなさい!」頼朝を叱りつける政子(イメージ)

「知ってて言っているなら人が悪いし、知らないで言っているなら気遣いがなさすぎます。どっちにしても私は不愉快です」

これには喝采を送った視聴者も多かったのではないでしょうか。確かに頼朝の発言は、聞いていられたものではありません。

他にも「金剛は小四郎よりもわしに似ている」とか何とか……どこまでもヘイトを集め続ける頼朝に、さすがの義時もうんざりした様子。

「言われるままに非道なことをしている自分が情けない」

頼朝の無神経な発言にうんざりする点は共感するとしても、この発言は頂けません。だって非道と承知で従うと決めたのは、他ならぬ義時自身なのですから。

どうしても許せないなら出家遁世するなり謀叛を起こすなり、そこまでいかずとも諫言した上で命令を拒否するなど、とれる態度はいくらでもあるはず。

「そんな事を言ったって、自分には守るべき家族も一族も所領もあるんだ!」

もちろんそれは否定しませんが、だったら文句を言うのは筋違い。自分だけいい子でいようったってそうは問屋が卸しません。

義村の「お前は頼朝に似てきているぜ」ではありませんが、頼朝の手先となって非道なことをしている義時は頼朝の共犯。八重や金剛や一族や所領を守るため、鬼にも悪にもなるべきではないでしょうか。

まぁ、義時がそこまで開き直るまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

八重の死を知らず、義時は……

そして八重の死。知人の「ガッキー(※新垣結衣の愛妾)!」と叫ぶ幻聴が聞こえたような……それはさておき。

全国各地で相次ぐ八重ロスに水を差すようで申し訳ないのですが、その画面作りにはいささか疑問が残りました。

川に流され、岩にしがみついていた鶴丸を見て、かつて川で殺された千鶴丸(演:太田恵晴)がフラッシュバックした八重(実際には目撃していませんが、ずっと心の片隅に想起していたのでしょう)。

冷静さを失って川へ駆け込み、鶴丸を抱え戻って来てからいきなり流された点に、どうしても違和感を否めません。

画面を見る限り、鶴丸を三浦義村(演:山本耕史)に預けた八重が最後に立っていた場所の水位は膝下くらい。

そこから力尽きて倒れたとして、成人女性があっけなく流されてしまうというのは、そうそう考えられることではありません。

もちろん水量や水流によって(例えば八重の立っていた一歩後ろがすごく深く、かつ川が激流だった、など)不可能ではありませんが、そんな状態の川で子供を遊ばせるというのは、ちょっと不注意が過ぎます。

ところで子供たちが遊んでいたのは、鎌倉のどの川(という設定)だろう(イメージ)

だから、川の流れはごく穏やかであったとするのが自然です。それでも水難事故は起きるのですから、八重と義村があんなに離れて駄弁っているのもいかがなものでしょうか。

またいくら緊急事態だからと言って、その場にいたみんながみんな誰一人として八重を顧みないほど、鶴丸に人望があったとも思えません。

八重に石を投げつけたり、金剛(演:森優理斗)と喧嘩したりなど、あまり周囲に溶け込めそうもない様子が劇中でも描写されていました。

もちろん、そんな鶴丸だからこそ彼を救うために命を失ってしまった八重の聖母性を引き立てる効果が期待できます。

しかしこれならCGを使って「成人男性でも流されかねない激流の中を泳いで鶴丸を助けた八重が、義村に鶴丸を引き渡した次の瞬間に濁流へ呑まれていった」などと演出した方が自然だったかと思います。

ともあれ「(頼朝との恋仲を引き裂かれ)入水自殺を遂げた」という八重姫の伝承はこういう形で回収されました。

ちなみに八重姫を供養する真珠院(静岡県伊豆の国市)では「梯子があれば救えたのに」という人々の思いから、今も梯子を供える風習が残っているとか。

鎌倉で悲劇が起きているとは知らず、義時は願成就院の阿弥陀如来像を前に運慶(演:相島一之)と酒を酌み交わしているのでした。

終わりに

ところで、劇中で運慶の掘っていた阿弥陀如来像と、現存している願成就院の阿弥陀如来像の手が違うのが気になりました。

劇中の仏像は両手とも親指と中指を合わせた形を手前に向けている一方、大河紀行のご本尊様は指先が欠損しているため細かくは判りませんが、右手中指がピンと伸びていることから親指と人差し指を合わせた形と考えられます。

仏像の手の形には、それぞれ意味がある(イメージ)

これはいずれも説法印ですが、前者は中品中生(ちゅうぼんちゅうしょう)、後者は上品中生(じょうぼんちゅうしょう)という形。

説法印とは極楽往生について説いた仕草で、上品上生(じょうぼんじょうしょう)から下品下生(げぼんげしょう)まで極楽往生の9ランクを示しています(※ただし例外もあり)。

前者は5/9ランクであるのに対して、後者は2/9ランクとかなり高く、あえて形を変えた(ランクを下げた)のは劇中何かの暗示となっているのでしょうか。

かくして第21回放送「仏の眼差し」振り返ってきました。頼朝は元から?として、勝利によって歪んでいく鎌倉。そんな中、正気をつなぎとめていた八重を喪ったことで、義時はますます闇堕ちがはかどってしまいそうです。

また、八重が保護していた曽我兄弟が今後どんな動きを見せるのか、頼朝と後白河法皇の関係はどのように決着するのか……などなど、次週の第22回放送「義時の生きる道」も目が離せませんね!

※参考文献:

『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月

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