【「はじめに」公開】『日本語ラップ名盤100』(韻踏み夫著)発売! (3/4ページ)

バリュープレス

リアルタイムを知らない後追い世代だからこそ、書けることがある、と。もし私が本書を書くのに有利な点があるとすれば、歴史を後から学んだ者であるということ、つまりいまから日本語ラップに入門しようとするあなたたちと同じ立場であるということである。

100枚の選盤をするにあたっては、次のことを意識した。まず、できるだけ選者の好みを排して、多くの人の意見を参考にし、誰もが納得できるような、オーソドックスで一般的な選定基準を心がけること。次に日本語ラップの全体像を広く示すこと。定番の作品があり、王道の歴史がある。そこに反発したり、そこからこぼれ落ちるような作品がある。100枚の作品が互いに共鳴、反発し合うようなダイナミズムを演出しようとした。同じように、評価軸もさまざまである。ヒップホップとして聞くか、ポピュラー音楽として聞くか。音楽か文学か。リアルタイムでの評価と、現在の視点からの再評価。日本での評価と世界からの評価。私はどれかひとつに絞らずに、できるだけ多角的な評価軸を導入するようにした。

レビューを書くに当たって意識したのは、まずは個別的であるよりも概略的であるよう書くことだった。作品それ自体について緻密に語ることの重要性は承知しているつもりだが、ここではそれよりも、周辺情報を多く共有しておくことを選んだ。誰かが一度、文脈を整理することが必要と思われたからだ。作品が、日本語ラップ史的に、政治的に、社会的に、音楽的に、文学的に、どのような場所にあるかを、ひとまずおおざっぱにでも定めたかったのだ。そしてそれが100枚分積み重なるなかで、ある程度の日本語ラップ史が浮かび上がること、それを最大の目標にした。日本語ラップ史と呼べる本はいまだ出されていないからである。

また、この本を書くにあたって、大量の資料に当たったことも話しておくべきだろう。主要参考文献を付しているが、そうした雑誌や書籍以外にも、ネットの記事、個人ブログなども手当たり次第に読んだ。オーソドックスな日本語ラップの入門を目指してのことである。私はいわば、それらをまとめ、要約しただけに過ぎないともいえる。作品がどのように受容されてきたかという歴史を、私は尊重したかったのである。

とはいえ、私自身に固有の考えがないわけでは、もちろんない。

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