ヘルプマークと赤十字マークに見る宗教性と「慈悲」 (2/3ページ)
赤十字マークが元になっていると考えられる「ヘルプマーク」にも同様の精神が宿っている。
■アンリージュナンとキリスト教
赤十字社は戦争、紛争、災害などにおける救護活動を中心として多岐に渡る活動を行っている人道支援団体である。赤十字といえばフローレンス・ナイチンゲールを連想する人も多いかもしれないが、赤十字設立の立役者はスイスの実業家アンリー・デュナン(1828〜1910)である。デュナンは1828年スイス・ジュネーブで生まれた。いわゆる「イタリア統一戦争」の最中、デュナンはイタリア北部・ソルフェリーノの凄惨な現場を目の当たりにした。一旅行者に過ぎなかったにも関わらず、あまりの惨状に涙したデュナンは負傷者の救援活動を始めたという。その後デュナンは戦時において、敵・味方、国家、民族、宗教などから、完全に中立の立場を有する国際的救護活動団体の必要性と、その活動に対する攻撃の禁止などを訴えた。その思想を根幹として赤十字が1863年に創設。翌年傷病兵の救護などの医療、看護、衛生活動を保護する国際条約「ジュネーヴ条約」がヨーロッパで締結され、医療活動の中立の印として赤十字マークがが採用された。赤十字マークは諸説あるものの、デュナンの母国であるスイスの国旗を逆にしたものだとされている。
十字ということでキリスト教の影響下にあるようにも思えるが、赤十字社とキリスト教の間には、少なくとも公には直接の関係はない。宗教や国境を超えるべき赤十字の理念からすれば、背景にキリスト教云々とされるのは断じて認められないだろう。しかし、創設者のひとりであるデュナンは敬虔なプロテスタント系キリスト教徒(カルヴァン派)の両親の下で育ち、デュナンの思想にも大きな影響を与えたと思われる。実際デュナンはキリスト教活動にも尽力しており、 ロンドンで創設された「YMCA」(キリスト教青年会)をジュネーブで設立。彼が中心となり世界大会が開催されたほどである。
敵を滅ぼすことが当然の戦時における「中立」という概念は、当時としては画期的なものであった。戦場における「中立」の概念は新約聖書の「汝の敵を愛せよ」という言葉を実践しているといえる。十字軍や大航海時代などで教会自身が踏みにじっていた言葉である。