第8回「斎藤茂太賞」が、デコート豊崎アリサ『トゥアレグ 自由への帰路』に決定!旅の魅力を伝える優れた書籍を選出した第5回「旅の良書」も発表 (3/5ページ)

バリュープレス

実際はどうだったのか、会ったときに聞いてみたい。
 随所に挿入された写真がこれまたすばらしい。たぐいまれな感性と表現力に恵まれた方なのだろう。なによりも最大の評価点は、キャラバンの暮らしに舞い戻ることによって、ほんとうの自由とは何かについて考え、この重いテーマを本書を通じて現代人につきつけていることだ。それはジャーナリストとしての彼女の矜恃であり、私たちはこの問いかけを無視するわけにはいかないだろう。
 さて、最終選考に選ばれたのは4冊だが、今回この4冊は全く傾向が違っていて選評にあたってはそれぞれに楽しませていただいた。まず『むう風土記』は、珍味・奇食の旅である。ところが筆者の手にかかると、何やら珍しいおいしそうな郷土食となり、つい手を伸ばしたくなるから不思議だ。好奇心が筆になってしっかり聞き取って書いている。ただこの手の類書は数多くあり、特出すべきところまで達していないところに物足りなさを感じた。まだまだ若いと思われる作者の今後に期待したい。
『イスタンブールで青に溺れる 発達障害者の世界周航記』は、非常にユニークは作品で審査員の間でも賛否が分かれたが、私はむしろそこに豊かな感性を感じとった。訪れる都市とそこで作者が思い出し紹介する文芸作品の一節が何ともいえない相乗的な効果でその都市の印象記となっていて魅力的である。しかしことさら自分が自閉スペクトラム症であることを強調しすぎる感があった。
『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』は、屋久島にわずかに残る「まつばんだ」という民謡のルーツを訪ねる物語である。現地の仲間と共同作業で音源を追う筆者の姿が爽やかで、発見のひとつひとつが謎解きのドラマのようでもある。このルポルタージュと並行して古謡「まつばんだ」を歌い継ぐ動きも活発化してきているという。地域の見直し、そして活性化の時代を象徴するような作品ともいえるかもしれない。
最後に、小さな出版社そして地方の出版社が力量のある作品を出版している現実を今回の選考会で知ることができた。これは高く評価したいことである。

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