朝ドラ【風、薫る】りんが向き合う“気高き患者”…和泉千佳子(仲間由紀恵)の実在モデル・三宮八重野の実像
NHK朝の連続テレビ小説『風、薫る』。第7週のテーマは「届かぬ声」でした。
トレインド・ナースの卵たちが出向いた実習現場「帝都医大病院」では、古い「差別」や「偏見」が溢れていました。一生懸命頑張る“声”は、医師にも先輩看病婦にも患者にも届かない。
それどころか、さげずまれたり・罵倒されたり・嫌味をいわれたり……ヒロインの一ノ瀬りん(見上愛)は、退院した担当患者・園部弥一郎(野添義弘)と最後まで心が通じなかったことが「悔しい」といいます。
※関連記事:
朝ドラ「風、薫る」りんが出会った“厄介な患者”の正体…園部弥一郎(野添義弘)のモデル・長田銈太郎の生涯けれど、バーンズ先生(エマ・ハワード)に、「あなたは患者さんに感謝されたかった? “ごうつくばり”ですねえ。見返りを求めるのは看護ではない。ののしられても患者が回復すればい。」と手厳しく忠告され、悩みの沼にハマってしまった様子です。
バーンズ先生はまさに正論。“患者と楽しくおしゃべり”していたら手が回らないし肝心な兆候を見逃すこともあるでしょう。けれど「正論」は、言われたほうにすると、時として難しく、悲しく、落ち込んでしまうことも。
“患者との接し方”に悩むりんの前に、新たに一際華やかな女性が入院してきます。SNSでも「大物の患者きた!」「豪華過ぎる!」と声が上がっていたのが、仲間由紀恵さんが演じる「和泉千佳子」です。
※現在では「看護師」という名称ですが、この記事では当時の名称に合わせて「看護婦」と表記しています。
※本記事では登場人物のモデルとされる実在人物を紹介していますが、ドラマ上の人物設定や物語展開は創作を含むため、実在人物の生涯・経歴とは異なる場合があります。
和泉千佳子(仲間由紀恵)(NHK『風、薫る』公式サイトより)
「和泉千佳子」のモデルは「三宮八重野」か?仲間由紀恵さんといえば、「天うらら」(1998年度前期)・「花子とアン」(2014年度前期)・「ちむどんどん」(2022年度前期)に続き、4回目の登場となる大ベテランです。
今回演じるのは、和泉公爵家の奥方「和泉千佳子」。この千佳子のモデルではないかと推測されているのが、実在の人物、「三宮八重野」(さんのみややえの)という女性です。
八重野の夫・三宮義胤(さんのみや よしたね)は、天保14年12月24日、近江国志賀郡真野浜村(現:滋賀県大津市)に、真宗正源寺住職・三上円海の長男として生まれました。
幕末の動乱期には、尊王攘夷派活動家として国事に奔走、明治になり兵部省(今の防衛省)に勤務した人です。明治3年(1870)に東伏見宮彰仁親王(のちの小松宮)の英国留学に随行、明治10年(1877)には外務省に移り駐ドイツ日本公使館に勤務、明治13年(1880年)に帰国したという、海外経験豊富な人物。
その後、義胤は宮内省に転じ明治17年(1884年)小松宮彰仁親王の随行として渡欧した際に妻・八重野と知り合い結婚しました。日清戦争で大本営附となったことが功とされ、明治29年(1896)に男爵を授けられました。
八重野は、弘化3年(1846)、英国キングストン・アポン・ハルの生地商ウィリアム・レイノア(William Raynor)の娘、アレシーアのこと。義胤と結婚したことで、日本名を「八重野」と名乗ったそうです。
三宮八重野は乳がん治療のために入院
この三宮八重野の、歴史上の記録や研究などはあまり残されていないようです。生地商の娘がどのように夫と出会い、結婚するに至ったのかなども不明。
けれども、赤十字の役員をしたり孤児院を設立したり、新興国日本のイメージアップのために各妃殿下や高官の夫人たちの家庭教師も務めたという話も伝わっています。
『風、薫る』の原作『明治のナイチンゲール 大関和物語』では、三宮八重野が登場しています。
▪️八重野の夫は、華族で外交官・宮内官僚の三宮義胤。イギリス滞在中にアリシア・レイノアと出会い、彼女は「八重野」と改名したこと
▪️乳がん治療のため、東京帝国大学医科大学附属第一医院へ入院したこと
▪️和の人格を評価していた外科教授の佐藤三吉(ドアマでは今井益夫/古川雄大)の采配か、大関和が八重野の担当看護婦に抜擢されたこと
などが書かれています。
大関和は八重野が手術を受けた日から、本人からの要望があり医局も許可したため、病室に泊まり込みで看護を行なったそう。その病室は、特別仕様になっていて、自宅から銀器なども持ち込まれていたそうです。
クリスチャンであった大関数は、八重野の夜中の付き添いが必要ではなくなると、毎日早朝に病院に近い教会で回復を祈ってから病院に出勤し、朝から夜まで八重野の世話をするために付き添っていたそうです。
八重野が華族の奥方様だったので特別扱いしたわけではなく、「自分でできることはやりたい」という意思でやっていたそうです。
患者に寄り添う人だった、という大崎和らしいエピソード。ドラマでは、りんはどのように千佳子に接するのでしょうか。
和泉侯爵夫人の千佳子が、乳がんの手術のため入院(NHK『風、薫る』公式HPより)
「患者さんの顔が明るくなる」といわれた大関和相馬黒光(※)『穂高高原』によると、「大関婦長が病室に入ってくると患者の顔が明るくなる」といわれるほどだったとか。
実際、クリスチャンであった大関和は、看護婦であると同時に、キリスト教の伝道者でもあり病人に寄り添う人だったので「いつか日本のナイチンゲールになる人物」と評価されて、看護で指名されることも多かったそうです。
「確かに「看護」は患者からの感謝や見返りを求めてするものではない。どんなに嫌な患者でも回復すればいい」というバーンズ先生は正論です。
けれども、患者の立場になるといろいろ不自由を感じたり、手術への不安を抱えたりなど、孤独感を募らせながら入院生活を送っているので、担当の看護師さんは頼りになる存在です。
自分も入院手術をしたときに、看護学生さんがずっと寄り添ってくれました。無機質なオペ室に横たわりいよいよこれから…と緊張が高まったとき、マスクと帽子で覆われた彼女が「ここにいますよ」というように目だけで微笑んでくれ、気持ちが和んだのは忘れられません。
ヒロインのりんのように太陽のような笑顔で、けれども何かあるとすごく「顔にでる」タイプの看護学生だったので、ドラマがとてもリアルに感じています。
※相馬黒光、夫の相馬愛蔵とともに新宿中村屋を起こした実業家、社会事業家。ドラマ内では、直美(上坂樹里)が担当する苔癬患者・丸山忠蔵(若林 時英)が相馬愛蔵のモデルと考えられる
「看護」に悩む一ノ瀬りんとさりげなく気遣う大家直美(NHK『風、薫る』公式HPより)
誇り高き華族の奥方とどう心を通わせるのか和泉千佳子を演じる仲間さんによると、和泉千佳子夫人は「どんな時でも凛としている人。周囲からみればわがままな華族の奥方ですが、目の前の現実を受け入れられず苦しみながら、自分の誇りを胸に持ち続けることにこだわっていきてきた人。そんな千佳子がよりそってくれるりんに何を感じるのか」……ということです。
華族の奥方として、誇り高く気丈に生きてきた千佳子と、ナイチンゲール看護教育を胸に、患者のためにまっすぐひたすらに(がむしゃらに)トレインドナースであろうと頑張る一ノ瀬りん。
普通に生きていたら出会うことのない世界線に住んでいた二人が、病院という世界を介して密に接することになる……どんな過程で描かれるのでしょうか。
心ない差別や扱いで傷付き凹み、「世間の『看護婦』への認識なんかこんなものか」とがっかりする梅岡看護婦養成所 一期生の“ナース7”たち。
けれども、「トレインドナースという存在を認めさせないと二期、三期と続かない。日本に『看護』が育たない!」と、気合を入れ立ち上がるのが偉い。
前へ前と進む、頑張れ“ナース7”たち!
和泉千佳子役の仲間由紀恵さんのコメント(NHK『風、薫る』公式Xより)
※朝ドラ「風、薫る」登場人物の実在モデル紹介:
朝ドラ【風、薫る】りんの運命を大きく変える外科医…今井益夫(古川雄大)のモデルとされる佐藤三吉の史実 朝ドラ『風、薫る』短い人生を駆けた異才…シマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)の実在モデル・鄭永慶の生涯参考:
女子学院公式サイト「特設サイト 大関ちかの歩をたどって」
明治のナイチンゲール 大関和物語 田中ひかる
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan


