地方医療は「治す」だけで維持できるのか、「点」から「面」への分かれ道

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地方医療は「治す」だけで維持できるのか、「点」から「面」への分かれ道
地方医療は「治す」だけで維持できるのか、「点」から「面」への分かれ道

人口減少と高齢化が進む地域では、病気になってから治療する従来型の医療だけでは、住民の生活を支えきれなくなりつつある。北海道安平町でも高齢化率は高く、地域医療の担い手確保は構造的な課題である。こうしたなか、医療法人社団並木会・渡邉医院の理事長、渡邉覚文氏は、脳梗塞や骨折などを発症前に防ぐ予防医療に力を入れる。地域医療は「点」から「面」へ移行できるのか。その試金石を探る。

なぜ地方医療は「発症後対応」だけでは限界なのか

地方医療の課題は、単に医療機関の数だけでは語れない。高齢化により慢性疾患や骨折リスクを抱える住民が増える一方、医師や医療スタッフの確保は容易ではない。厚生労働省の医師偏在に関する資料でも、地域間で医師数に差があることが示されており、北海道の一部医療圏も医師不足の課題を抱える地域として位置づけられている。

北海道安平町で診療を行う医療法人社団並木会・渡邉医院の理事長、渡邉覚文氏は、防衛医科大学校を卒業後、自衛隊医官として勤務し、北海道での赴任経験を通じて地域医療への関心を深めた。同氏はその後、えりも町でへき地医療に従事し、地域内の救急患者に対応する現場を経験したという。

渡邉氏によると、重篤な患者を救急車で帯広まで搬送することもあり、限られた医療資源の中で一つひとつの判断が患者の予後に直結する状況だった。そうした経験から、脳出血や骨折などが起きた後に対応するだけでは、生活の質を守りきれないという問題意識が強まったと話す。

ただし、予防医療への転換は理念だけでは進まない。地域住民の受診行動、検査体制、医師の説明負担、継続的なフォロー体制がそろわなければ、発症前介入は一部の取り組みにとどまる可能性がある。

頸動脈エコーと骨密度測定が示す予防医療の現場


渡邉医院では、乳幼児から高齢者まで幅広く診療し、1日70〜80人ほどの患者を診るという。同氏が重視しているのが、脳梗塞や心筋梗塞、骨粗しょう症による骨折などを発症前に捉える「予防」の視点である。

同院の説明によれば、頸動脈エコーや骨密度測定などを通じてリスクの可視化を行い、必要に応じて生活習慣の見直しや薬物療法を提案している。ここで重要なのは、「必ず防げる」と断定することではなく、リスクを把握したうえで発症可能性の軽減を図るという位置づけである。

特に高齢化が進む地域では、脳血管疾患や骨折によって要介護状態に近づくケースがあり、本人の生活だけでなく、家族や地域の介護資源にも影響が及ぶ。厚生労働省も医療費の地域差分析を公表しており、地域ごとの医療費構造を把握することは、自治体や医療機関にとって重要な論点となっている。

もっとも、検査によるリスク把握は万能ではない。全身状態や既往歴、合併症の有無を踏まえた判断が欠かせず、薬物療法を含む介入には適応の選別が前提となる。利便性や早期発見の意義が高まるほど、過剰検査や過剰介入を避ける医療側の説明責任も問われる。

「すべてを診る」総合医療は持続可能か

へき地医療の現場では、専門分化された都市部の医療とは異なり、診療領域を限定せずに幅広い症状へ対応する力が求められる。渡邉氏は、えりも町での経験を通じて「すべてを診る」総合医としての診療スタイルを形成してきたと説明する。

同氏は、患者を自分の家族のように捉え、必要な検査や治療方針について丁寧に説明することを重視しているという。こうした姿勢は、医療機関へのアクセスが限られる地域において、住民との信頼関係を築くうえで重要な要素となる。

一方で、総合医型の地域医療は、特定の医師の経験や判断力に依存しやすい構造も持つ。幅広い疾患を診る力、救急対応の経験、予防医療への理解、住民との関係構築を一人の医師に集中させる場合、医師本人の負担が大きくなりやすい。渡邉氏も、地域医療を個人の努力だけで支え続けることには限界があると話す。社会保障費の抑制や医療人材の偏在が続くなかで、個別医師の献身に依存するモデルから、複数の医師や医療機関が連携する体制へ移行できるかが課題となる。

総合医療の標準化は容易ではない。地域ごとに患者層、医療資源、救急搬送体制が異なるため、どこまでを一診療所で担い、どこからを専門医療機関につなぐのかという線引きが欠かせない。

地域医療を「点」から「面」に変えられるか

渡邉氏が今後の課題として掲げるのが、地域を「点」ではなく「面」で支える医療体制である。同氏は、同じ志を持つ医師とのネットワーク構築や人材育成、分院展開などを通じて、地域医療を継続可能な仕組みにしていきたいと話す。

安平町は、人口減少と高齢化という地域課題を抱える自治体である。町の公表資料でも、高齢化率の上昇や北海道胆振東部地震後の人口減少が課題として示されている。こうした地域では、医療機関は単に診療を行う場にとどまらず、住民の生活を支える社会インフラとしての役割を持つ。

予防医療の推進は、患者本人の健康維持だけでなく、介護負担や医療資源の逼迫を抑える可能性がある。ただし、それを地域全体の仕組みにするには、医療機関単独では限界がある。自治体、介護事業者、救急搬送体制、地域住民との連携が必要になる。

ただし、地域医療の再設計は短期的な成果が見えにくい。検査体制や医師ネットワークを整えても、住民の受診行動が変わり、発症予防や重症化予防の成果が見えるまでには時間がかかる。渡邉医院の取り組みが地域に定着するかは、個人の熱意を組織的な医療体制へ転換できるかにかかっている。

【取材/監修協力】
医療法人社団 並木会 渡邉医院
理事長 渡邉覚文氏
https://namikikai.net/



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